院内報

元気な発熱ならLet it Be

  昨年12月31日に日本で最も国民的人気グループであったSMAPが解散し、SMAPファンにとっては大変寂しい年となりました。表題のLet it Beですが、SMAP以上に世界的な人気グループであったビートルズ活動中の最後シングル盤のタイトルです。

 ところでLet it Beの意味は?と聞かれると私のような英語が不得意な人は返答に困ってしまいます。Let it Beを辞書で調べてみますと「ありのままに」、「自然の成り行きにまかせる」、「そのままにしておきなさい」などの意味があり、また「心配するな」とのニュアンスも含んでいると書かれています。

 今回のお話しは、小児科クリニックで訴えの多い発熱について考えてみます。
 皆さんは、風邪などにかかるとなぜ熱が出るか考えられたことはありますか?子供さんに限れば、発熱の原因の8~9割は風邪などのウイルス感染症です。外来で使用できるウイルスに効果のある薬は、インフルエンザ(タミフルなど)と水ぼうそう(アシクロビルなど)に対する薬しかないのです。熱が出ると抗生剤が処方される場合がありますが、ウイルス感染症には抗生物質の効果は残念ながらありません。風邪薬も同様です。

  実は発熱そのものはウイルス・細菌感染症にかかった時に、大切な働きをしています。体内にウイルス・細菌が侵入し増殖すると、人はそれに対抗するために臨戦態勢をとります。その臨戦態勢の一つが体温を上昇させることです。体温が上昇するとウイルスなどの増殖が困難になり、またウイルスなどを撃退する免疫力の働きも高まります。また安静にすることも、免疫力を高めることにつながります。発熱は感染症の初期には必要であり、無理に体温を下げるのは好ましくないのです。

 発熱があり診察を受け、風邪などの可能性があり少し経過見ましょうと言われても、発熱の多くは2~4日ほど続きます。特に夜間は高熱となりやすく大変寝苦しくなりますが(ご両親も高熱が出れば夜はぐっすりと寝ることはできませんね!)、朝熱が少し下がり気味で、おもちゃなどで遊ぶことができる、食欲低下はあるが水分は摂取できるなど全身状態が比較的良好なら少し様子を見ていただいてよいでしょう。発熱した後、すぐに熱が下がらないからといって解熱剤の使い過ぎはお薦めできません。治癒する期間が長引く可能性があるためです。小児の解熱剤は作用が穏やかで、期待するほど下がらないこともあります。夜などに高熱で泣いてばかりいる、痛みを強く訴える時などに限定して使用しましょう。  子供さんの発熱で注意していただくことは

①生後半年までの赤ちゃんの発熱

②元気がない、ぐったりしている、顔色が悪い、いつもの発熱時と様子が異なる

などは単なる風邪などのウイルス感染症ではなく細菌感染症等の可能性もあるため早めの受診が必要です。

 赤ちゃん以外の子供さんで、診察を受けた上で発熱期間が3日以内であり、比較的元気なら

    Let it Be (発熱はそのままで、すぐには心配しないで)

 ただし発熱が4日以上持続している時は再度診察を受けてください。

 

 

2017年10月23日

ドイツの子供さん


 今年の夏にドイツ在住の2歳の子供さんを診察する機会がありました。母の実家のある日本に帰省されており、発熱が3日ほど続いていましたが、全身状態が良好なため、薬なしでもう少し様子を見ていただくことにしました。その際ドイツでの風邪、発熱に関してお聞きしましたが、元気があれば抗生物質のみならず風邪薬さえも出してもらえないとのお話しでした。

 ヨーロッパの多くの国では、発熱を伴う風邪(気管支炎、副鼻腔炎も含めて)、軽度な中耳炎などに対して初めから抗生物質を処方する国は少なく、日本では抗生物質をすぐに使用するような細菌感染症も、はじめは抗生物質を使用せず経過観察する場合が多くあります。

 抗生物質は、肺炎をはじめとした重い細菌感染症を治癒させることができるようになり、人類に多大な恩恵を与えてきました。しかしその乱用の結果、現在世界各地に抗生物質が効かない「薬剤耐性菌」が拡大しています。2015年11月にNHKの番組で“治る病気が治らない!?~抗生物質クライシス(危機)~”が放送されました。抗生物質の過度の使用を警告する内容でした(NHK、抗生物質 で検索できます)。

 抗生物質は使えば使うほど必ずその抗生物質に効果のない耐性菌が出現し、さらに別の抗生物質が開発され、また新たな耐性菌が出てくるという繰り返しの歴史でした。製薬会社も膨大な開発費を使って新たな抗生物質を作っても耐性菌が出現すれば売れなくなるため、現在新しい抗生物質の開発はほとんど行われなくなっています。

 特に小児科領域では、有効性のある抗生物質がどんどん少なくなってきているのが現状です。今後抗生物質の使用頻度を下げなければ、耐性菌の増加で赤ちゃん、老人、基礎疾患のある方を含めて多くの人々の命を脅かすことにつながります。

 米国では2015年3月、オバマ大統領は国を挙げた対策を宣言し不必要な抗生物質の処方の削減などに乗り出しました。日本でも今年6月に厚生労働省が抗微生物薬適正使用の手引きを公開し、抗生物質の使用量を減らすよう求めています。

 

 当院は耐性菌の出現を少なくするために、本当に必要性がある時のみ抗生物質を処方し、人類の宝である抗生物質を末永く大切に使用できるよう努力していますので、ご理解よろしくお願いします。



2017年12月11日

ドイツの子供さん2

 20年~30年前は、小児科医は発熱すれば抗生剤を出すという時代でした。恥ずかしながら私も発熱すれば抗生剤を処方していました。その理由として、乳幼児の細菌感染症は、はじめは普通のかぜなどのウイルス疾患と区別が困難で、時として重篤になること、外来では今日のように少量の血液で、短時間で測定できる検査機器がなく、ウイルス感染症と細菌感染症の区別が困難であったことなどの理由からです。

 

 現在では

①乳児期にヒブワクチン、肺炎球菌ワクチンが定期接種化され、重篤な細菌感染症が著明に減少したこと

②外来で少量の血液検査で、簡単かつ短時間でウイルス感染症と細菌感染症かの推測が可能になったこと

③乳幼児期には数多くのウイルス感染を受けていることが明らかとなり、発熱の多くはかぜなどのウイルス感染症であり、抗生剤を使用しなくても治癒することが多いこと

④かぜなどのウイルス感染症の後に合併することの多い軽度の細菌性中耳炎、副鼻腔炎などは、抗生剤を使用した場合と使用しない場合との比較で治癒期間に差がないこと

 などの理由から一般小児科外来で、病初期に直ちに抗生剤を必要とする疾患は多くありません。

 発熱早期に抗生剤を服用し3~4日で解熱した場合、抗生剤の効果があったと思いがちです。でもその多くはウイルス感染症であり抗生剤を内服しなくても治癒することが多いと思われます。発熱があるから、のどが赤いから、黄色い鼻水が出るから(副鼻腔炎:よく見られる普通のかぜは、初期には鼻水が透明でしばらくして黄色となります。医学的に鼻水が主症状のかぜを鼻副鼻腔炎といいます)、中耳炎があるからといっても、抗生剤を内服しなくても治癒する場合が実際は多いのです。

 

 また抗生剤を頻回、長期間にわたり使用すると、鼻、のど、腸の中に多く生息している善玉菌(私たち体の中で悪玉菌が増えないように守ってくれています)が減少し、抗生剤の効きにくい耐性菌を含めた悪玉菌が増加してきます。3歳頃までは腸の中に多種類の善玉菌をより多く保つことが、それ以後の健康に非常に大切である可能性があるとの研究、腸内細菌が安定していない幼少期に抗生剤の長期にわたる投与が、大きくなって難病である潰瘍性大腸炎、クローン病などの腸疾患の発症率を上げているという最近の研究報告もあります。

 もちろん溶連菌感染症、強い咳が認められるマイコプラズマ感染症、10日以上多量の黄色い鼻汁の持続が見られる、発熱と耳痛がある中耳炎(中等度以上の中耳炎)、血液検査などで細菌感染症の疑いが強く示唆される場合などに対しては、抗生剤は必要です。肺炎などの重い細菌感染症の疑いがある場合、または診断がついた段階では直ちに抗生剤を使用する必要があります。また例外として基礎疾患がある子供さんでは、予防的に抗生剤を使用することがあります。。

 前回述べましたように、抗生物質は人類の命を救ってくれた宝物です。その宝物である抗生物質を末永く大切に使用していきたいと考えています。そのため当クリニックでは発熱などで来院され、診察で全身状態が比較的良好と判断した場合は、直ちに抗生剤の投与は行わず経過観察させていただく治療方針で診療を行っています。ただし発熱が持続する、元気がない、水分をほとんど取らない、顔色が悪いなどの所見があれば、細菌感染症をはじめとした入院などを要する疾患の可能性がありますので早めの受診(夜間、休日では救急病院)をお願いいたします。

 

2018年01月31日

気管支の掃除屋さん

 秒速45m(時速160km) これは何の速さを示していると思いますか?
答えは、台風の風速でもあり、特急列車、スポーツカーの速度でも正解となりますが、人に限ると“咳”の速さが答えとなります。“くしゃみ”ですともう少し早く時速300km前後あり、新幹線はやぶさと同じくらいの速度となります。

 咳により痰を気管支からのどへ排出するためには、台風並みの風速が必要です。ゆっくりと息を吐く程度では痰は排出できないのです。では“かぜ”をひくとなぜ咳が出るのでしょうか。それはかぜの初期では、気管支に入って増殖した風邪ウイルスを、また数日後はウイルスにより障害を受けた気管支粘膜から生じた痰を、あるいは夜間にのどから気管支に入り込んだ鼻水をのどまで排出するために咳が出ているのです。特に夜間は気管支とのどが水平となっており、起きている時より咳で痰などが出やすくなります。
 外来でしばしば、子どもさんが夜間に咳き込んで熟睡できないため(ご両親も同様に睡眠不足となりますが)何とか止めてほしいとよく言われます。しかし咳を強力に止めてしまうと痰が気管支に詰まってさらに苦しくなったり、肺炎などへ進展する可能性があるのです。


 

 かぜをひいた時の熱、鼻水、咳は生体の防御反応の一つです。熱があるから下げる、鼻水があるから止める、咳が出るから止めるではないのです。気管支に存在するウイルス、痰など体にとって有害なものをのどまで排出する必要があって咳が出ており、ある程度は許容することも大切なことです。
そのため子どもさんでは強力な咳止めは、状態を悪化させたり、薬自体の副作用が心配ですので、咳止めを使用する場合は作用の軽い咳止め程度にとどめます。痰などを溶かす、あるいは気管支を広げて痰を排出しやすくする薬などを使用することが理にかなっています。また部屋を加湿する、水分を多めにとることも痰を排出しやすくします。咳は、普通のかぜですと多くは7~10日ほどで減少してきます。かぜ薬は夜間よく眠れるようになったら中止してよいでしょう。特に保育園、幼稚園などで集団生活している子どもさんでは、繰り返して違ったかぜをひきますので、咳が出ているからといって飲んでいると、1年間の内かなりの期間飲むことになりますのでお薦めできません。

 “咳が出ていても、積極的に止めない”。これがかぜの治療の大切なキーポイントです。 ただし以下の場合は早めの受診が必要です。①1週間を過ぎても咳が増強している場合(百日咳、マイコプラズマ感染症の可能性)②ヒューヒュー・ゼーゼーを伴う咳(RSウイルス感染症、ヒトメタニューモウイルス感染症、気管支喘息の可能性、呼吸が苦しい時は夜間でも受診が必要)③発熱が4日以上持続し、元気がない、咳が増強している(肺炎の可能性) など

 

2018年04月10日

鼻の掃除屋さん

 “鼻水が1日で1200ml程度鼻腔内(鼻の中)で作られ、ゆっくりとのどへ流れている”ことをご存知でしょうか”。この量はかぜをひいてる人、または花粉症の人でもなく、全く健康な大人が1日で産生されている鼻水の量を示しています。


 鼻の大切な働きの一つとして、吸い込まれた空気をきれいにすることがあげられます。いわば鼻は空気清浄機にたとえることができます。私たちが吸い込んだ空気は一見きれいに見えますが、その中には目に見えない小さなゴミ、微粒子、細菌、かぜウイルスなどが数多く含まれており、これらを鼻腔内の粘膜表面で捕らえ鼻水の中に取り込み汚れた鼻水となります。その汚れた鼻水をのど方向へ流し、胃を経由し、最終的には便とともに体から排泄しているのです。

 “鼻水は、ウイルス、細菌、微粒子などヒトにとって不要なものをゴミとして鼻からのどへ、または鼻孔(鼻のあな)から排出するために必要なのです。”

 かぜのひくと、なぜ大量の鼻水が産生されるか考えてみましょう。かぜのひきはじめには、鼻腔内に侵入したかぜウイルスが大量に増殖しています。このままでは大変なことになりますのでかぜウイルスを鼻腔内から外へ、あるいはのどを通って胃の中へ押し流すために通常量より大量に鼻水が産生されます。鼻水が鼻腔内にたまり“鼻づまり”となり、あふれて鼻孔から排泄され、“目に見える鼻水”となって出てきます。また健常時より大量にのどへも鼻水が流れています。胃内へかぜウイルスが達すれば、胃内ではかぜウイルスは増殖できませんのでそのまま便とともに排泄されることになります。

 また鼻水の中には分泌型IgAという免疫蛋白質が含まれています。この蛋白質は鼻腔内で直接かぜウイルス、細菌の働きを抑える、鼻粘膜の細胞表面に付着し細胞内でかぜウイルスの増殖を防ぐ働きがあり、かぜをひいた時の助け人となります。かぜをひいて数日経過すると、鼻水は透明から白色または黄色で粘り気のある鼻水へと変化していきます。これはかぜウイルスとその後に増殖した細菌と体が戦った後の白血球などの残骸で、やはり汚れた不要な鼻水であり、鼻をかんで外に出す、あるいは飲み込んで便として排泄する必要があります。黄色い鼻水は10日以上大量に持続しなければ、抗生剤は不要で自然に軽快していきます。

 かぜの初期にはさらさらした大量の鼻水が産生されるため、夜間にのどから鼻水がしばしば気管支に入り込み咳の原因となり夜間睡眠が妨げられることになります。しかし咳は気管支に入り込んだ鼻水をのどまで排出し、肺炎とならないように予防しています。


 かぜで来院された時に、ご両親からしばしば“鼻水が大量にでているから止めてほしい”とよく言われます。しかし鼻水産生を強力に抑制することは、鼻の中で大量に増殖したかぜウイルスが排泄できなくなり、かぜの状態がより悪化することにつながります。また一部の鼻水止めの薬は脳へ作用し、眠気、痙攣などを生じやすくする、認知機能に影響を及ぼすなどの副作用もあります。かぜをひいた時に、ウイルス、細菌などを含んだ汚れた鼻水は止めるのではなく、鼻腔内から排泄させることが最も大切なことなのです

 そのため対策としては①ゆっくりと左右の鼻を交互にかむ。②鼻がかめない乳幼児では市販されている鼻水吸引器を使用する(ただし頻回に行なうのは鼻の粘膜を傷つけやすくなるため注意が必要です)③空気が乾燥していると鼻づまりが起きすくなるため加湿器を使用する。また加湿をすると鼻の奥に詰まった鼻水も柔らかくなりのどへ排出しやすくなります。④粘調な鼻水を溶かす作用のある薬を使用することなどです。しかし鼻水、鼻づまりがすぐに解消し、子どもさんがぐっすりと眠れるようになる魔法の薬はありません。鼻水の多くは7日から10日ほどで軽快していきますので、昼間に機嫌が良いようであれば焦らず気長に待つことも大切なことです。


 “鼻水が出ていても、積極的に止めない”これもかぜ治療の大切なキーポイントです

2018年05月29日

半分、青い。

 2018年度上半期のNHK連続テレビ小説のタイトルが「半分、青い。」で、現在放送中です。岐阜県東濃地方で生まれたヒロインである楡野鈴愛(にれのすずめ)が、故郷の岐阜県と東京を舞台に高度成長期の終わりから現代まで漫画家を志し、紆余曲折を繰り返しながら成長していく物語です。江南市の木曽川の川岸もロケ地として鈴愛と律(りつ:誕生日が同じ幼なじみで大の仲良しの男の子)が頻繁に訪れる場所として出てきました。

 鈴愛は小学3年生の時(1980年)に左耳に異変を感じるようになり、町医者を受診し名古屋の大学病院を紹介され精密検査の結果、医師から二度と聴力は戻らないと宣告されます。彼女は左耳の聴力を失い、律の前で涙を流しますが、その後「左耳で小人が踊っている」と前向きに捉え、律や家族の思いやりに支えられながら成長していきます。

 ドラマ上の話ですが、鈴愛が難聴となった原因は“おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)”だったのです。自覚症状が無いまま“おたふくかぜ”に感染し、難聴を発症したのです。日本ではおたふくかぜワクチンの発売開始は1982年ですので、ワクチンによる難聴予防はできない時代でした。


 おたふくかぜは軽い病気と思われがちですが、実際には様々な合併症を伴うことがあります。耳下腺炎(ほほが腫れます)、合併症として10~100人に一人の割合で見られる無菌性髄膜炎は後遺症もなく治りますが、比較的頻度が高く、生涯にわたり問題となるのが“おたふくかぜ罹患後の難聴(ムンプス難聴)”です。音を感じる神経がおたふくかぜウイルスによって壊されてしまいますので、現在の医学では治すことはできません。大きくなってかかると、難聴だけでなくめまいや耳鳴りを伴って日常生活に大変支障をきたすことになります。

 自然感染ではムンプス難聴は約1,000人に1人の割合で発生しますが、おたふくかぜワクチン接種済者ではきわめてまれです。

 日本耳鼻咽喉(いんこう)科学会が昨年発表した調査では、2015~16年の2年間で、少なくとも全国で348人がおたふくかぜのウイルス感染が原因で難聴になり、うち両側難聴16例を含む274人に重い難聴が残ったと報告されています。

 “でもおたふくかぜには有効なワクチンがあります。”

 多くの先進国ではおたふくかぜワクチンが定期接種となっており、計2回の接種が行われています。そのため、おたふくかぜ罹患後の難聴はほとんど見られません。日本では残念ながら任意接種となっていますが、ぜひ接種したいワクチンです。日本小児科学会は 2 回の予防接種を推奨しています(1歳と小学校入学前の1年間)。2018年5月に17の学会などでつくる予防接種推進専門協議会はおたふくかぜワクチンの定期接種を求める要望書を厚生労働省に提出しました。でもまだ定期接種となっていませんので、待っていて難聴になってからでは遅いのです。


 大切な子供さんのために、おたふくかぜワクチンを2回プレゼントしましょう!

2018年07月05日

ピッカピカの一年生

 “ピッカピカの一年生” 大変懐かしく思い出されるこのCMフレーズは、1978年から十数年にわたり小学館の学習雑誌『小学一年生』のCMシリーズとして放送されました。日本全国津々浦々のピッカピカの新小学一年生の児童が、カメラに向かって小学校入学後の抱負などを話すテレビCMで、一般の子供らしい無邪気なリアクション、コメントや地方ならではの自然豊かな背景などが視聴者に大変好評を博しました。gooランキングの「昭和の日」にちなんで発表された「秀逸すぎた昭和の懐かしCMフレーズ」では、なんと第1位に選ばれています。

 今回は、食物アレルギーに関するお話です。離乳食開始後に、顔面、体などに急に蕁麻疹が出現し来院する子どもさんは小児科外来ではしばしば経験します。乳児期の蕁麻疹は、大部分が食物アレルギーにより生じます。乳児期の食物アレルギーの原因食物は、卵、牛乳、小麦の順で多く、0歳児ではこの3つで約95%を占め三大アレルゲンと呼ばれています。蕁麻疹などのアレルギー反応は、アレルギーの原因となる食品に含まれている蛋白質(アレルゲン)に対して体が、異物とみなして過剰に反応して起こります。過剰な反応を起こすためには、過去にアレルゲンが体の中に入って、それを攻撃する物質(抗体)が多く作られている必要があります。

 アレルギーを発症した子どもさんの一部は、今までに原因となる食物の摂取歴がなく、卵、乳または小麦製品を初めて摂取して発症しています。初めて摂取したのになぜアレルギー反応が生じたのか不思議ですね。このような子どもさんにアレルギーを引き起こしたと推測される食物蛋白に対して攻撃する抗体の有無を血液検査で調べると、抗体が存在する(陽性)ことが多く認められます。この検査の注意点として、抗体が陽性であっても十分量摂取して無症状の場合もしばしば認められます。このような例では食物アレルギーはないと判断します。ある食物の摂取でアレルギー症状の出現が認められ、血液検査でその食物蛋白に対する抗体が陽性の場合に初めて食物アレルギーを疑うことになります。
 

 以前は母親が摂取した食物が、母乳から子どもさんの体内に入り、抗体が作られるとの説から、母親が原因食物の摂取を控えれば、子どもさんの食物アレルギー発症を予防あるいは軽減できると考えられた時期がありました。しかし現在ではその経路での関与は非常に少ないと考えられています。出生直後から母乳の摂取歴がなく、ミルクのみで育っている子どもさんでも、初めて卵を食べてアレルギー反応が起きるからです。
 

 最近「経皮感作」という新しい知見が出てきて、食物アレルギーの概念は大きく変わってきました。
 

 2008年、イギリスのLackという小児科医が、ピーナッツアレルギー発症に関して“①皮膚炎に塗ったピーナッツオイルが発症リスクとなる、②ピーナッツの初回摂取でも発症する、③家族のピーナッツ摂取量が多いことが発症リスクとなる”などの事実から、「食物アレルギーは、荒れた皮膚表面から食物抗原が皮膚内へ入り込むことにより生ずる」との新しい概念を発表しました。

 湿疹の程度が強い赤ちゃん(アトピー性皮膚炎)では、食物アレルギーが高率に合併すること以前から知られていました。その理由として、アレルギー素因の強い赤ちゃんでは、これら2つのアレルギー疾患が同時に発症しやすいためと考えられてきました。しかし、Lackなどの研究から、“通常では皮膚内へ侵入できないほどの大きな環境中の食物蛋白(アレルゲン)が、湿疹、アトピー性皮膚炎のある子どもさんでは、ひび割れた地面のように荒れた皮膚表面から皮膚内に入り込むことにより、感作(そのアレルゲンに対して抗体を作ってしまうこと)が成立すること”が明らかとなってきました。皮膚の表面に多くの脂がある健常な皮膚は、通常これらのアレルゲンを通しませんが、湿疹などで皮膚表面が傷ついてしまうと、アレルゲンの皮膚内への侵入が容易となります。これを「皮膚のバリア障害」といいます。


 現在では食物蛋白が繰り返し荒れた皮膚内に侵入することにより、食物アレルギーが発症するとの説が有力となっています。


 赤ちゃんの肌は、①生後3ヶ月を過ぎると肌の表面を覆っている皮脂量が減少し乾燥肌になりやすくなる、②大人の肌より皮膚の厚さが薄くて傷つきやすい、③特に顔は唾液がつきやすく容易に湿疹ができやすいなどの特徴があります。


 そこで現時点での、乳児期における食物アレルギーを少しでも予防、軽症化するために
① 兄、姉、ご両親などが食物アレルギーまたはアトピー性皮膚炎である家庭では、出生直後から保湿剤を毎日使用する。
② 少なくとも離乳食を開始するまでは、顔面などに皮膚炎があれば、食物抗原が容易に入らないようにするためにステロイド軟膏を使用し皮膚炎を軽快させ、保湿剤の使用で皮膚の荒れが少ない状態を維持すること。


 などが対策として考えられています。

 またステロイド軟膏、保湿剤の使用法の注意点としては、効果を十分発揮するために少量をすりこむのではなく、たっぷりと、のせるように塗ることが大切です。

 

 赤ちゃんの肌は “「ピッカピカ肌の人生一年生」” で!!

 

2018年09月02日

人見知り

 赤ちゃんは、生後6ヶ月頃になると、お母さんなど日常的に養育している身近な人と、それ以外の人を区別できるようになり、いわゆる“人見知り”が始まります。単身赴任や長期出張などで家をあけがちなお父さんに対しての“パパ見知り”もあります。逆に大家族の中で生まれた赤ちゃんは、出生直後から家族みんなでかわいがられ育てられます。そのため身近で多くの時間を過ごしてきた人々に対しては、人見知りはほとんど見られません。離れて暮らしているおじいちゃん、おばあちゃんに対して人見知りする赤ちゃんでも、接する時間が増えるにつれ、次第に人見知りもなくなってきます。多くの時間を一緒に過ごすことにより、この人は仲間であり、安心できると感じるようになってくるからです。

 前回に続いて食物アレルギーのお話です。人は、生命を維持するために絶えず食物を摂取する必要があります。特に蛋白質は、体をつくる主要な成分であるとともに、酵素などの生命の維持に欠かせない多くの成分になります。私たちが日常で摂取している蛋白質は、動物、食物由来であり人の蛋白質とは異なっています。しかし大多数の人では、摂取した蛋白質は異物と認識されず、アレルギー反応を引きおこすことなく体内に取り込まれ、私たちの体の中で再利用されています。

これは、“免疫寛容(めんえきかんよう)”といわれている仕組みがあるためです。

 免疫寛容とは“口から取り込んだ食物に対して人見知りをしない”ことにたとえることができます。免疫寛容の働きにより、口から入った蛋白質を仲間と認識し、腸内で分解し体の中に取り込こむことができます。免疫寛容があるからこそ、人が食物を利用し生きていくことができるのです。ところが食物アレルギーのある子どもさんでは、経口摂取した蛋白質に対して、異物(他人)と認識し、これを排除しようとしてアレルギー反応を引き起こします。これは摂取した食物に対して“人見知り“をして、大泣きし拒否している状態にたとえることができます。

 前回お話ししましたイギリスの小児科医Lackは、ピーナッツアレルギー患者さんから得た詳細な観察結果から“口から摂取した食物蛋白質に対しては免疫寛容が誘導されるが、皮膚から浸入した食物蛋白質に対しては感作(アレルギー反応が起きやすい状態になること)が成立する”との説を発表しました(2008年)。荒れた皮膚から食物蛋白質が皮膚内に入り、他人と認識される前に、口からその食物蛋白質を摂取し仲間と認識させることの重要性を説いています。この説は“食物の摂取開始時期を遅くすれば食物アレルギー発症が予防できる”との概念が覆され、世界的に大きなインパクトを与えました。

 この説を実証する研究としてLackらはピーナッツアレルギーの摂取時期に関する研究で、ピーナッツアレルギーを起こしやすいと考えられる子供さんを対象に、生後4~11か月の間にピーナッツを開始すると、除去した群と比べピーナッツアレルギーが減少したことを発表しています(2015年)。また日本小児アレルギー学会は、日本で行われた卵アレルギーに関する研究結果から、生後6か月未満で卵アレルギーを発症しやすいリスクのある(=痒みを伴う湿疹がある)乳児に対して、“卵アレルギー発症予防のために、湿疹のない状態にした上で、離乳食での卵摂取を遅らせるのではなく、むしろ早期に微量摂取を開始すること”を推奨するようになっています(2017年)。またすでに卵アレルギーになっている乳児では、摂取によってアレルギー症状がおきる危険も伴うため、必ず医師の指導のもとに摂取を開始することを求めています。湿疹のない乳児では、卵アレルギーを発症するリスクが高くないため、母子手帳などに書かれた離乳食の進め方に従って、卵の開始をすすめています。

 現在までの研究では、ピーナッツ、卵以外の食品については、早期から食べ始めることでアレルギー発症が予防できるかどうかまだ十分にはわかっていませんが、離乳食全般を遅らせることは、食物アレルギー発症予防につながるという考え方は否定されつつあります。

 0歳での食物アレルギーの3大原因は、卵、牛乳、小麦であり、これらの食品の摂取開始時期を遅らせることは問題がありそうです。でも逆に早すぎると、消化管機能が十分でないため蛋白質が十分に分解されず、免疫寛容が誘導されない可能性があります。がつるつるした状態であれば、赤ちゃんが人見知りをしないために比較的早期から多くの人と接することと同様に、乳児期に食物を制限するのではなく、生後5~6ヶ月頃から少しずつ食物を摂取しながら、色々な食物に“人見知りしないように”なれていくことが大切と思われます。顔などに皮膚炎があり、すでに食物に感作されている可能性がある子どもさんでは、小児科で皮膚炎の治療と共に、卵、牛乳、小麦などに感作されているかどうかの検査を受けて下さい。たとえ感作されていても(血液検査で、陽性であっても)必ずしもアレルギー反応が起こるわけではありません。数値によっては少量から摂取開始すれば、アレルギー反応を起こさないこともありますので、かかりつけの小児科医に離乳食の進め方について相談してみましょう。

 現時点での、食物アレルギーの発症予防、または軽症化対策としての離乳食の注意点を下記にまとめてみました。
① 湿疹がある場合は、離乳食開始前に湿疹を改善させておきましょう(ピッカピカの一年生 を参照して下さい)。

適切なスキンケア(洗って保湿すること)、治療を行っても湿疹が改善しない場合は、小児科医に相談して下さい。

② 湿疹がない状態の子供さんでは、生後5~6か月頃から離乳食を少しずつ開始しましょう。
③ 離乳食の進め方としては、少量から開始し、アレルギー症状が起きないことを確認しつつ時間をかけて少しずつ増量しましょう。
④ 離乳食を開始、または増量する時は、アレルギー症状が出る可能性もありますので、蕁麻疹などのアレルギー症状がおこった場合にすぐに受診がしやすい時間帯に摂取しましょう。

 “ピッカピカの肌を保ち続け”、食べ物に人見知りしないために“離乳食開始は遅れないように”しましょう!!

2018年11月06日

金平糖

 砂糖を原料として作られた“金平糖”というお菓子は、小さい角(つの)が表面に数多くあるカラフルで昔懐かしいお菓子です。金平糖は1546年にポルトガルからもたらされた異国の品々のひとつで、織田信長も宣教師からフラスコ(ガラス瓶)に入った金平糖が贈られています。当時は公家や高級武士しか口にすることが出来ない貴重な品でしたが、江戸時代後期には庶民の間にも広く普及しています。明治時代に入る と金平糖はおめでたい“高級菓子”となり、慶事の際の引き出物として使われるようになりました。現在でも皇室の慶事の際には、菓子器に入った金平糖が引き出物として使用されています

                                    
 今回は感染性胃腸炎に関するお話です。感染性胃腸炎の多くは、ロタウイルス、ノロウイルス、アデノウイルス、アストロウイルスなどによるウイルス性胃腸炎(胃腸かぜ)です。原因ウイルスの一つであるノロウイルスは、電子顕微鏡による観察では金平糖によく似た形をしています。一方ロタウイルスは車輪のような形をしています。ノロウイルスはアメリカのオハイオ州ノーウォーク(Norwalk)という町の小学校で急性胃腸炎が集団発生し、発症した子どもさんから初めて検出されたため、その町名に由来し、ロタウイルスは車輪(ラテン語でロタ(rota))の形状から命名されています。

 感染性胃腸炎は、乳幼児、高齢者では、嘔吐(吐くこと)、下痢を繰り返すことで脱水症状になりやすく、時に重篤となることがあります。特にロタウイルス胃腸炎は、乳幼児期では約40人に1人の割合で病気が重くなり、ワクチン導入前は5歳未満の感染性胃腸炎による入院例の約半数が、ロタウイルスが原因とされてきました。便の検査から、原因ウイルスが判明しても、現時点では感染性胃腸炎を引き起こすウイルスに有効な薬はありません。ウイルス性胃腸炎の治療において最も大切なことは、いかに脱水症を防ぎ、軽症で済ませることです。

 注意点として嘔吐、下痢があっても必ずしも“感染性胃腸炎”とは限らないことです。感染性胃腸炎以外の病気でも、病初期には嘔吐、下痢など伴う症状を呈することがあるからです。生後3ヶ月未満で発熱を伴う、黄色や緑または血液を含む嘔吐、強い腹痛、右下腹部の痛み、血便や黒色便などが認められる、呼吸障害(息苦しい)がある、意識障害があるなどの場合は、単なる感染性胃腸炎ではなく重篤な病気である可能性があり、早期の受診が必要です。


 脱水症の程度の簡単な見分け方として以下の症状を参考にして下さい。


 軽症:元気あり、目の落ち込みがない、口の中が湿っている、涙あり


 中等症:元気がない、のどの渇きがある、目の落ち込みが軽度あり、
     口の中がネバネバしている、涙が少ない


 重度:ぐったり、目の落ち込みが強い、口の中が乾燥している、涙が出ない


治療としての経口補水療法


 経口補水療法とは、水と電解質(塩分:Na、Cl)を経口的に(口から)補給する脱水症に対する治療法です。経口補水療法に用いられる経口補水液は、脱水時に不足している水と電解質を含み、それらの吸収速度を高めるために、糖質(ブドウ糖)が少量配合された飲料です。少量でもよく体内に吸収され、しっかりと水分・電解質の補充ができます。経口補水療法が世界で初めて注目されたのは、1971年に東パキスタン(現バングラデシュ)でのコレラ大流行時に経口補水療法が実施され、死亡率を30%から3.6%までに改善したことがきっかけでした。1980年代にユニセフは『子ども健康革命』を提唱して、その中で積極的に経口補水療法の普及に努めました。その後この経口補水療法が、脱水症における水・電解質補給の選択肢のひとつとして欧米を中心に注目を集め、2003年に発表された米国疾病管理予防センター(CDC)のガイドラインでは、小児の軽度から中等度の脱水状態に対しては経口補水液の使用が第一選択となっています。そこで、我が国でも、子どもを脱水から守るために『小児急性胃腸炎診療ガイドライン2017』が日本救急小児医療学会から発表されました。その内容は欧米のガイドラインと同様に、軽症から中等症までの脱水を伴う急性胃腸炎に点滴と同等の効果のある経口補水療法の早期の開始を推奨していることです。


 そこで軽症から中等症の脱水症では、早期に経口補水療法を行います。点滴するのと同等の有効性が示されていますので、子どもさんがいやがる点滴をしなくてもすみます。病院で処方されるソリタ-T 配合顆粒2号、または市販されているOS-1(ゼリーがおすすめです)などの経口補水液を使用します。ポカリスエット、アクエリアスなどは塩分(Na、Cl)が少なく、糖分が過剰でおすすめできません。また水やお茶も不適当です。吐き気があるうちは、少量ずつ投与することが推奨されています。小さじ1杯またはペットボトルのキャップ1杯(約5ml)から開始し、5分おきに投与します。スプーンで飲めない場合は、スポイドで飲ませてみて下さい。嘔吐が落ち着いて飲めるようになったら、1回量を増やします。5分~10分間隔で5 mL→10mL→20mL・・・などと増量をしていきます。5分~10分間隔で少しずつ増やすのがこつです。のどが渇いているため、一度に大量に飲んでしまうと嘔吐してしまうことにつながります。


 感染性胃腸炎では、脱水を防ぐために、下痢、嘔吐が始まったら、速やかに自宅で経口補水液療法を開始しましょう。

 

 “経口補水液は少しずつ、頻回にのませること”がキーポイントです。

 経口補水液を嫌がる子どもさんでは、凍らせシャーベット状にしたものを、あるいは暖めて飲ませてみて下さい。それでも飲めない場合は塩分を含んだ野菜スープ、チキンスープなど試してみましょう。授乳中の乳児では母乳はそのままで、ミルクも薄めず通常の濃度で、少しずつ、頻回に与えて下さい。また嘔気、下痢症状がつづいても、食事制限を続けることは好ましくありません。胃腸炎により腸の粘膜がはがれ落ちており、腸粘膜が新しく作られるためには食事からの栄養が必要なためです。食欲がないときは、お菓子、プリン、ヨーグルト、アイスクリームでもかまいません。少しずつ与えて栄養を取りましょう。食事内容は、脂肪分は避ける、また下痢がある場合はジュースなど糖分を多く含む飲み物は下痢を長引かせるため控えて下さい。

 経口補水療法を行なっても吐き気、嘔吐、下痢が持続し状態が改善しない時は、点滴が必要となります。元気がない、目が落ち込んでいる、脈が速い、手足が冷たいなどの症状がある場合は、重度の脱水状態となっているため、早期の入院が必要です。

 ノロやロタウイルスは、石鹸やアルコールでは簡単に死滅しないウイルスですが、石鹸で少し時間をかけ入念に手洗いをすることで、ただの水洗いでは落ちない手の脂をしっかり落とし、手の表面に付着したウイルスを剥がして流すことが出来ます。またノロやロタウイルスに効果的とされる消毒液が「次亜塩素酸ナトリウム」です。次亜塩素酸ナトリウムは家庭で使用されているキッチンハイターなどの塩素系漂白剤に含まれています。吐いたものや便が、衣類などに付着した場合は、表示されている使用濃度などを参考に希釈した次亜塩素酸ナトリウム液で消毒して下さい。流行時には感染者または、ほとんど症状がない軽症感染者の便にもウイルスが潜んでいるため、予防対策としては、入念な手洗いと鼻、口などからウイルスが侵入するのを防ぐためにマスクの着用が大切です。

ロタウイルス、ノロウイルスは多くの種類があり、繰り返して感染することになります。特にロタウイルスは乳幼児期に初感染(初めてかかった)時に、重症になりやすいことが知られています。幸いなことにロタウイルスにはワクチンがあり、接種することによりすべてのロタウイルス胃腸炎を約80%予防でき、重症のロタウイルス胃腸炎に限ると約95%の予防効果が認められています。ロタワクチンの初回投与は、生後14週6日までに行なうことが推奨されています(少なくとも4週間の間隔をおいてロタリックスは計2回、ロタテックは計3回接種します)。我が国ではロタワクチンは任意接種のため有料となりますが、生後2ヶ月時の初回ワクチン接種時に、ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチン、B肝炎ワクチン+ロタワクチンをお勧めします。


 生後2ヶ月時には、大切な子どもさんへ他の予防接種に加えて“ロタワクチン”をプレゼントしましょう!!

2019年02月13日

液状のり

  封筒をのりづけするために使い古した液状のりを使用しようとした時に、スポンジキャップに付着したのりが固まって出ないことをしばしば経験します。よく使用されていますのりメーカーのホームページでその対処法を検索すると以下のように記載してあります。
 “本体からスポンジキャップを外して、少し熱めのお湯(50度前後)に浸し(やけどに注意!!)、揉み洗いしてのりを落とします。”
  
 小児科外来では、腹痛を訴えて来院される最も多い原因は便秘です。便秘による腹痛は、虫垂炎(俗にいう盲腸)と間違うほどの強い痛みを生ずることがあります。おなかをくの字に曲げて歩行困難なため重篤な病気と考えてこられる家族もいます。このような場合、浣腸を行い排便後に腹痛がすっかり消失すれば、便秘が原因であったことになります。

 今回は便秘のお話です。毎日快便の人では、朝食を食べるとすぐに便意をもよおして排便します。これは朝食前の空っぽの胃の中に食べ物が入ってくると“自然に大腸が動き出し”便を直腸(肛門の近くの大腸を直腸といいます)に送り出し排便を促すからです。「次の食事が入ってきたから、たまっている便を排泄し大腸を空けて下さい」というわけです。これを胃―大腸反射といいます。胃―大腸反射は、おなかがいっぱいにならないようにしている大切な反射です。

 便秘の人では、この胃―大腸反射がうまく働いていません。快便の人では、胃―大腸反射により、空っぽの直腸内に便が入り便意を感じますが、この便意は直腸に便が入り込んだときから30分ほどで消失してしまいます。便秘の人では、直腸に硬い便がすでに長い間たまっていることにより便意を感じなくなっています。“便意を感じたらがまんせず早めにトイレへ行く習慣が、便秘を予防することにつながります。”

 便秘では、下記の悪循環を断つことが大切です。
   排便の我慢→直腸内便の貯留→便からの水分吸収
      ↑                 ↓
      排便時の痛み、肛門が切れる ← 便が硬くなる 

 便秘の対処法は、下記の液状のりのスポンジキャップが固まった時と似ています。
  ① スポンジキャップの固まったのりを取り除く
  ② スポンジキャップが固まらないように毎日使用する
  ③ 液状のりが乾燥などで容易に固まらないように粘度(濃度)を高くしない

(メーカーの仕事ですが)

 以下にそれぞれの対処法について解説します。
① スポンジキャップの固まったのりを取り除く→堅い便を浣腸で滑りやすくし排泄する

 大腸の働きは便の中の水分を吸収することです。排便がない日が何日も続くと、肛門の出口付近にある便はどんどん硬くなり、また次から次へと新たに硬い便が作られ、ますます排泄困難となります。このような状態では、スポンジキャップに固まったのりが付着した場合と同様に、強く圧力をかけても(強い腹痛が生じます)出口の狭い肛門を硬い便が通り抜けることは困難です。また、たとえ排泄できたとしても硬い便により肛門内が切れ、出血することにつながります。浣腸することにより、浣腸液が大腸を刺激するのみならず、浣腸液が潤滑油の働きをして滑りやすくし、狭い肛門を硬い便がスムーズに排泄できるようになります。

               便秘の治療の一つ目のステップは、
      肛門の出口付近に貯まって栓をしている状態の“硬い便を除去する”ことです。

② スポンジキャップが固まらないように毎日使用する→毎日排便する(でなくてもトイレで排便の訓練をしましょう)

 毎日排便することは大腸で便の留まる時間が少なくなり、柔らかい便のまま排泄することにつながります。便秘が持続している場合は、便秘の悪循環から抜け出すためにしばらくの間便秘薬を使用しましょう。便秘薬の効果が生ずるまでの数日間は、便を硬くしないために排便がなければ1日おきに浣腸をしましょう。浣腸を頻回にすると癖になると勘違いされていることがありますが、たとえ毎日浣腸をしていても癖にはなりません。また、食事量を増やすことも大切です。ところてんは専用の器具で押し出して作りますが、食事量を多くすればところてんを作る時と同様に、新しく摂取した食物で便が押し出されやすくなります。小食の子どもさんでは、おやつを少なくし、飲み物はお茶、白湯などのノンカロリーの飲料を主とし、3度の食事前に食事が待ちきれないほど、おなかをすかせましょう。そうすると自然と食事量が増加することが多いです。

              便秘の治療の二つ目のステップは
        可能であれば“毎日あるいは2日に1回排便する“ことです。
       排便回数が増加すれば、便が硬くなりにくく悪循環が断ち切れます。

③液状のりが乾燥などで容易に固まらないように、粘度を高くしない→食物繊維の多い食事を心がける。

 液状のりの粘度を低くすることは、便では柔らかい便にすることです。通常の便の75%は水分です。この水分量がより多くなると下痢になります。便の固形成分で大部分を占めるのが小腸で吸収されなかった“食べ物の残りかす”です。その中で重要なのが食物繊維で、人ではその消化酵素を持っていないため分解されずに小腸を通過し大腸に届きます。野菜、大豆、海藻など食物繊維の多い食品を摂取すると、食物繊維が水分を吸収し膨張するため、柔らかい便の量が増加します。逆に、白米(ご飯)、パン、麺類などは食物繊維が非常に少なく、これらを多く摂取していると便秘になりやすくします。ただし穀物の中で玄米、麦ご飯、ライ麦パンなどは、比較的繊維が多くおすすめです。食物繊維はうんちの量を増すのみならず、腸内に住む善玉菌のエサにもなっています。最近の研究によると、腸内に多種類の食物繊維を取ることにより、これらをエサとして多種多様な善玉菌が増加し、多種多様な善玉菌を多く持つ人ほど種々の病気になりにくく、健康長寿につながるとの報告があります。便秘を治すことは健康の維持にもつながります。

              便秘の治療の三つ目のステップは、
              “食物繊維を多く取る“ことです。

 一時的な便秘では、①~③の対処法を試してみましょう。 

 便秘を主訴に外来受診される子どもさんの多くは、長期間便秘が続いています。長期にわたり便秘が持続している場合は、上記①~③の対処法のみでは便秘が軽快することは少なく、上記対処法を行ないながら“便秘薬をしばらくの間内服する”必要があります。このような子どもさんでは、直腸に硬い便が長時間にわたり貯まっているため、直腸が太く拡張しています。便秘薬は、大きく分けて便を軟らかくする薬、大腸の動きを高める薬に分けられます。これらを単独または併用して便秘を引き起こす悪循環から抜け出しましょう。便秘薬の併用で排便回数が増加すれば、拡張していた直腸も縮小し、便意を感じるようになり便秘が治癒に向かいます。

        便秘の治療で大切なことは、便秘の悪循環を形成しないために
 “食物繊維を多く取るように意識し、かつバランスの良い食事に心がけ、毎日排便する習慣をつける”
                     ことです。

2019年08月14日

世界で2番目に高い山

 日本で2番目に高い山は、南アルプスの「北岳」(3,192m)ですが、世界では、カラコルム山脈にある「K2(ケーツー)」で標高は8,611mあります。19世紀末までカラコルム山脈の存在は知られておらず、その後カラコルム山脈が発見された際、標高が高い山々にカラコルム(Karakorum) の頭文字「K」を取って順に、K1, K2, K3, K4, K5 と測量番号がつけられました。その後、K2以外の山には名前が付けられ、K2だけがそのまま山の名前として残りました。登頂の難しさでは世界最高峰のエベレスト(標高8,848m)よりも上で、世界一登ることが難しい山とも言われています。

 今回は、乳児ビタミンK欠乏性出血症のお話です。脳内出血は、老人がかかるものと思われていますが、妊娠・分娩時に異常なく生まれた元気な赤ちゃんでも頻度は少ないのですが、脳出血を起こすことがあります。乳児ビタミンK欠乏性出血症は、主として生後 3 週から 2ヶ月までの母乳栄養児に発症し、8割以上に脳内出血がみられる重い病気です。

 ビタミンKは脂溶性ビタミンに分類されており、ほうれん草のような緑色の野菜に多く含まれています。食物からの摂取以外にも、ビタミンKを産生する腸内細菌の働きで腸の中でも作られています。ビタミンKは、血液が固まる際に必要不可欠な凝固因子の産生に深く関係しています。凝固因子が不足すると、外傷などの原因がなくても出血を起こしやすくなります。したがって、ビタミンKは正常な止血作用を保持するためにとても大切な物質です。その他、骨の成長過程にも重要であると考えられています。

 赤ちゃんはビタミンKが欠乏しやすく、「乳児ビタミンK欠乏性出血症」を発症するリスクを抱えています。
元気で生まれた赤ちゃんがビタミンK欠乏になりやすい理由として、
① ビタミンKは母から子への胎盤移行性が悪く、出生時の蓄えが少ない。
② 腸内のビタミンKを作る腸内細菌が少ない。
③ 母乳中のビタミンK含有量が少ない。
④ 腸からビタミンKを吸収する働きが弱い。 
などが関与していると考えられています。

 でもビタミンK2シロップを飲ませることで乳児ビタミンK欠乏性出血症を予防する
ことができます

 わが国では1989年に厚生省の研究班がビタミンK2シロップによる予防対策を発表し、出生時、生後1週間(産院退院時)、1ヶ月健診時の3回経口投与する方法が標準方式として定着しています。しかし、日本小児科学会新生児委員会が1999年から2004年までの6年間を対象とした全国調査で、ビタミンK2シロップ3回投与でも、乳児ビタミンK欠乏性出血症を起こしてしまった赤ちゃんがわずかながらいたこと、またヨーロッパ諸国において、3ヶ月間連日もしくは週 1 回のビタミンKの予防投与を受けた母乳栄養の赤ちゃんでは、乳児ビタミンK欠乏性出血症の発症はなかったことが報告されています。
2010年に乳児ビタミンK欠乏性出血症の改訂ガイドラインが発表され、2011年に一部が修正されています。修正されたガイドラインでは、これまでと同様に、出生時・生後1週間(産院退院時)・1ヶ月健診時の3回投与が推奨されていますが、合併症を持たない正期産新生児への予防投与について以下のような文言が新たに追加されました。

(1) 1ヶ月健診の時点で人工栄養が主体(おおむね半分以上)の場合には、それ以降の ビタミン K2シロップの投与を中止してよい。
(2)出生時、生後 1 週間(産科退院時)および 1ヶ月健診時の3 回投与では、我が国および EU 諸国の調査で乳児ビタミンK欠乏性出血症の報告がある。この様な症例の発生を予防するため、出生後3ヶ月までビタミンK2シロッ プを週1回投与する方法もある。
(3) ビタミンKを豊富に含有する食品(納豆、緑葉野菜など)を摂取すると乳汁中のビタミンK含量が増加するので、母乳を与えている母親にはこれらの食品を積極的に摂取するように勧める。

上記(1)を補足しますと、生後1ヶ月の時点でミルクが主体(半分以上)であれば、ミルクの中にはビタミンKが十分量含まれているので、以後のビタミン K2シロップの投与は中止も可能という意味です。

 我が国でも、出生後3ヶ月に達するまで、ビタミンK2シロップを毎週1回投与する方法が全国的に普及しつつあります。ビタミンK2シロップ4回以上内服する場合は有料(出産費用に含まれている施設もあります)となりますが、値段は比較的安いです。当院でも自費となりますがお渡しができますので、希望があればお申し付け下さい。

以上をまとめると
・元気で生まれた赤ちゃんが、生後3週から2ヶ月までの間にビタミンKの不足により脳に突然出血することがある。主に母乳栄養の赤ちゃんに起こりやすく、脳内出血を起こすと重篤な状態となり後遺症を残す、あるいは命に関わることがある。
・ビタミンK2シロップ計3回の内服で、赤ちゃんの脳内出血などを起こす乳児ビタミンK欠乏性出血症はほぼ予防可能であるが、計3回の内服でもわずかながら認められている。
・あくまで任意ですが、生後3ヶ月に達するまでの間、ビタミンK2シロップの毎週内服により確実に乳児ビタミンK欠乏性出血症を予防する方法がある。ただし生後1ヶ月の時点でミルクが主体(おおむね半分以上)の場合は、以後の内服は中止してもよい。

2020年04月11日

オーストラリアの世界で1番

 アボリジニの聖地として彼らが呼んでいた「ウルル(エアーズロック)」が、1987年にユネスコ世界遺産として登録されました。ウルルは、一枚岩でできており世界最大級ですが、正確には世界で2番目の大きさです。では世界一の一枚岩はどこにあるかというと、同じオーストラリアの西オーストラリア州にある「マウント・オーガスタス」で、ウルルの約2.5倍もあります。
 約50年後の話となりますが、もう一つオーストラリアが世界で1番になると予想されていることがあります。それは、オーストラリアが世界で1番目(最初)に子宮頸がんを撲滅する国になると考えられているのです。

 今回は、子宮頸がんに関するお話です。子宮頸がんは、子宮の入り口にできるがんで、多くのがんと異なり20代後半から多くなり、40歳前後でピークになります。最近は若い世代(20~40代)で増加しています。日本では、年間約1万人が子宮頸がんにかかり、毎年約2,800人の女性が子宮頸がんで亡くなっています。主な発生原因はヒトパピローマウイルス(HPV)の感染です。

 HPVはとてもありふれたウイルスで、性交渉の経験がある女性のうち50~80%はHPVに感染していると推計されています。男性の感染率も同様です。HPVには150種類以上の「型」があり、その中で少なくとも15種類はがんを引き起こす”高リスク型”HPVと呼ばれ、特に16型、18型が子宮頸がん全体の2/3以上の原因となっています。
 HPVに感染する人はたくさんいますが、その多くは免疫力によって排除されます。一部の人は排除されず持続感染(ウイルスを体内に持ち続ける)の状態となります。持続感染期間が長く続くと、がんに進行する可能性のある異常な細胞(“異形成”といいます)が増えてきます。軽度の異形成は、自然に治ることも多いといわれています。しかし高度の異形成(前がん病変)となると、子宮頸がんに進行する可能性が高くなります。そしてHPVの持続感染した一部に、子宮頸がんなどの病気が生じてきます。HPVに感染してから子宮頸がんに進行するまでの期間は、数年~数十年と考えられています。

頻度は少ないのですが、HPVに感染した女性は
子宮頸がんを発症する危険性があります。

<子宮頸がんワクチン(以下HPVワクチン)>
 HPVワクチンは、高リスク型のHPV16型、18型のHPV感染を防ぐ目的で行われます。ワクチン接種により、16型、18型による子宮頸がんの前がん病変の発生を“95%以上防ぐ”ことができます。効果は、接種後8~10年経っても持続することが確認されています。

<HPVワクチン定期接種の対象者>
 小学校6年生から高校1年生の女性です。
(標準的な接種時期は中学1年生)
 対象者は無料(公費助成)でHPVワクチンを接種することができます。
 ワクチンは、標準的には計3回接種します。

<副反応>
 接種した部位が赤くなったり、腫れたりすることがあります。これは数日で消えることがほとんどです。たまに微熱が出ることもあります。接種時の痛みや緊張から迷走神経反射を起こし、ふらふら感、冷や汗、血圧低下のため失神してしまうことが稀にあります。これについては、接種直後から30分程度安静にすることで対応が可能です。
 重大な副作用はきわめて稀です。日本国内でワクチン接種をした人の中に痛み、運動障害、不随運動、その他多彩な症状が報告されていますが、同様の症状はワクチンを接種していない同じ年代の女性や男性にも報告されており、因果関係は証明されていません。
また国内で承認された定期接種のワクチンですので、健康被害が生じた場合には「健康被害救済制度」の対象となります。

HPVワクチンは世界中で安全なワクチンとして認められており、2019年2月の時点で
92か国が、国の予防接種プログラムとして導入しています。

 HPVワクチン単独では、すべての型のHPV感染を防ぐことはできません。子宮頸がんの予防にはHPVワクチンによる一次予防がまず大切であり、次に、子宮頸がん検診で早期発見し、早期治療を受けること(二次予防)が重要です。

子宮頚がン予防には、
HPVワクチン接種と成人になった後の定期的な子宮頸がん検診の2つが大切です。

 すでにフィンランドでは、HPVワクチン接種者における子宮頸がんの予防効果を認めた報告が、オーストラリア、アメリカ、スウェーデン、イギリスにおいては、HPVワクチン接種者で若年女性の前がん病変の減少を認めその有効性が報告されています。我が国においても、新潟県での研究で、HPVワクチン接種者ではHPV16、18型に感染している割合が有意に低下しているとの報告、秋田県、宮城県及び松山市における研究では、HPVワクチン接種者では前がん病変の著名な減少が報告されています。


 オーストラリアでは2007年から12~13歳の女子にHPVワクチン接種が開始され、2013年からは男女ともに定期接種となり、さらに2018年からはワクチンの種類が、子宮頸がんの原因となるHPV型の約90%をカバーする9価ワクチン(9種類の型が入っています)へと変更されています。そのためオーストラリアでは2028年までには、子宮頸がんが10万人に4例未満まで減少し、さらに2066年には10万人に1例未満となり、先進国の中でも子宮頸がんを撲滅する最初の国になると予測されています。

 日本においては、HPVワクチンは2010年から公費で受けられる定期接種になり、接種率は70%以上でしたが、複数の副反応の報告を受けて厚労省が2013年6月に積極的なワクチン接種のすすめを中止しました。そのため「HPVワクチンは危険なワクチン」という誤った印象がまん延してしまい、接種率は1%以下に落ちてしまいました。 このままでは、我が国は子宮頸がんが今後さらに増加することが危惧されています。


 現在、国内外を問わずWHO(世界保健機構)、日本産科婦人科学会、日本小児科学会そしてノーベル賞を受賞された本庶佑氏など多くの医療団体および関係者がHPVワクチン接種の安全性と必要性を訴えています。


 WHOは最新の世界各国における解析結果と科学的根拠に基づき、HPVワクチンの安全性と有効性を繰り返し確認する一方で、日本において若い女性が本来予防しうるHPV関連がんのリスクにさらされている状況を危惧し、安全で効果的なワクチンが使用されていない日本の政策を批判しています。


 アメリカ臨床腫瘍学会も、『HPVワクチン接種は、子宮頸がんを引き起こすいくつかのタイプのHPVによる感染の一次予防に最適な戦略である。ワクチン接種の代わりになりうる予防戦略は他にはない』と推奨しています(2017年)。


 またHPVワクチンの種類についても、積極的に接種している米国、EUにおいては、すでに9価ワクチンが使われています。今後、厚労省が早期に“HPVワクチンの積極的な接種のすすめを再開すること、9価HPVワクチンを承認すること”を願っています。

国が積極的にすすめるまで、待っていては遅すぎます。
定期接種の対象者、定期接種の年齢を過ぎた未接種の女性の方も(有料となりますが)
ぜひ子宮頸がんワクチン接種をお願いします。

2020年05月14日

水に浮く1円玉

 1円玉を水平にして、水を入れたボウルの表面にそっとのせてみて下さい。1円玉が、水の表面に浮かびます。1円玉はアルミニウムで、できています。1cm3の水の重さは1.0gで、アルミニウムでは2.7gですので、普通に1円玉を水の中に入れれば沈んでしまいます。コツは水平にして、水の上に“そっとのせることです”。水の表面は、水分子どうしが引っ張り合っています(表面張力といいます)。その上に水となじまない1円玉を水平にそっと乗せると、その表面に接しているすべての水分子が、力を合わせて1円玉が沈まないように互いに手をつなぎあって支えあい、1円玉を浮かせています。1円玉を水表面に立てて乗せると、1円玉と接触している部分の水分子の数が少なくなり、水1分子あたりの1円玉の重さが大きくなり、支えきれず沈んでしまいます。

 今回は、軟膏、保湿剤の塗り方のお話です。

 子どもさんの皮膚の特徴は、大人と比べると皮膚表面の油分が少なく乾燥していること、皮膚の厚さが薄いこと、汗をかきやすいことです。唾液、母乳、ミルク、食物などが付きやすい口の周り、冬では乾燥しやすい頬(ほほ)、夏では汗をかいてむれやすい首・体幹部、衣類・皮膚がこすれ合いやすい手足の関節内側部などが、刺激を受けやすく、これらの部位に皮膚炎、あせもが生じやすくなります。皮膚炎の程度が強ければアトピー性皮膚炎と呼んでいます。皮膚炎、あせもなどが生ずると、かゆみが生じ、かゆみのため爪でひっかくことによりさらに皮膚炎が悪化します。これを繰り返すことにより悪循環が形成され、皮膚炎は容易には治りにくくなります。また皮膚炎が長期間持続すると、皮膚炎が慢性化(皮膚が固くなります)し、長期間の治療が必要となります。アトピー性皮膚炎では、より強いかゆみが生じ、特に夜間はかゆみのため十分な睡眠が取れなくなり、疲れやすさ、集中力や注意力の低下などが起こって、日常生活に支障をきたすことにつながります。
 このような皮膚炎のある子どもさんに対して治療薬としてステロイド外用薬(軟膏、クリーム)が使われますが、塗っても軽快しない、または軽快したが保湿剤に変えたらすぐ悪化してしまうとの訴えで外来を受診されることが多くあります。

 このような場合、以下の点を心がけて、外用薬を使用してみましょう。

① はじめに汚れ、汗などをやさしく取り除く

 皮膚炎の表面に、唾液、食べ物、汗、汚れなどが付着しているとステロイド外用薬が皮膚内に入りにくくなり、効果は減弱します。


 外用薬を塗る前に、これらの汚れをやさしく取り除きましょう。

 特に唾液は、食物を消化する働きがあり、荒れた皮膚に付着するとさらに皮膚を溶かし皮膚炎を悪化させます。乾いたタオルでこすって汚れを取り除くと、逆に皮膚を刺激し皮膚炎をより悪化させることがあります。また、唾液を拭き取ったタオルを繰り返し使用すると、タオルに付着した唾液を荒れた皮膚に繰り返し塗っていることとなり、これも皮膚炎を悪化させることにつながります。

 顔面に付着した唾液などの汚れは、ぬるま湯などで湿らせ軽く絞ったタオルなどで、やさしく皮膚表面をタッピング(たたいて)して、やさしく取り除きましょう。体に付着した汗、汚れなどは、シャワーで優しく洗い流すのがおすすめです。

② 皮膚炎のある部位、程度にあった適切な強さのステロイド外用薬を使用する

 現在、皮膚炎の外用治療薬としては、ステロイド外用薬と2歳からのアトピー性皮膚炎が適応症であるタクロリムス外用薬、コレクチム外用薬が、世界的に有用性が証明された治療薬として認められています。非ステロイド外用薬は、効き目が非常に弱いこと、長期連用により“かぶれ“などが生ずる副作用があり、今日ではほとんど使用されなくなっています。

 皮膚炎治療の第一歩は、早期に皮膚炎をかゆみのない程度まで軽快させることです。
そのため、治療開始時早期には、比較的大量にステロイド外用剤を使用する必要があります。

 皮膚の厚さは部位により異なります。また外用薬の効果は、皮膚内に入る薬の量に比例します。そのため同じ外用薬を同じ量塗ったとしても、その効果は部位により異なることになります。たとえば顔の皮膚は薄いため弱めの薬でも効果はありますが、足底部の皮膚では厚く硬いため強めの薬を使用する必要があります。また慢性化した硬い皮膚炎部位では、薬が皮膚内に浸透しにくく、強めの薬を使用する必要があります。この場合、強めの薬を使用しても、皮膚内に入る薬の量は少ないため、適切に使用すれば、副作用は生じにくくなります。

 皮膚炎の治療は、皮膚炎の生じている部位、程度により使用するステロイド外用薬は異なるため、定期的に受診し、皮膚炎の状態に応じたステロイド外用薬使用法を聞き、治療を行ないましょう。また適切な指示に従って使用すれば、ステロイド軟膏による問題となる副作用は非常に少なくなります。

③皮膚炎部位は、こすらない、外用薬、保湿剤は少し厚めにのせるだけ

 しばしば、よく見られる“効果が十分発揮できない” ステロイド外用薬の塗り方は、副作用が怖いとの理由で、

 少量のみ使用し皮膚炎部位に広く薄く引き伸ばし擦り込んで使用することです。

 このような使用法は、十分効果が期待できないばかりでなく、皮膚炎部位を擦り込むことにより、より皮膚を刺激し、逆に皮膚炎を悪化させることにもつながります。
 これは、”たわし”で皮膚をこすることに例えることができます。

 一番効果的な使用法は、皮膚炎部位より少し広い範囲(目には見えませんが、荒れている皮膚炎の周囲にも皮膚炎が生じています)に、診察により指示された適切なランクのステロイド外用薬を、朝と夜の計2回、皮膚表面が

     “光る程度に少し厚めに”、“皮膚表面にのせるように”

塗ることです。厚めに外用薬を塗った部位では、ティシュペーパーをつければ、くっついたままの状態になります。少しべたつきますし、衣類ですぐに取れそうですが、気にしないでください。上記の塗り方で、適切なステロイド外用薬であれば、多くの場合皮膚炎は数日で非常に良くなってきます。また口周囲、あごなど唾液で汚れやすい部位で軽快しない場合は、一日にたっぷりと3回塗ってみましょう。

④ 良くなったと思っても、ステロイド外用薬はすぐには中止しない

 長い間皮膚炎を繰り返している場合は、厚めにこすらず毎日外用薬の使用を継続すると、一見治癒してしまったように思われる状態となります。

 皮膚炎を繰り返している子どもさんでは、多くはこの段階で治療を中止しています。

 実は皮膚の表面は一見治った様に見えますが(寛解といいます)、皮膚表面から少し中に入った部位では“まだまだ皮膚炎のただれが残っています”。これは、家が火事になり大量の水で消火しほぼ鎮火したような状況に似ています。まだ一部に火種が残っており、もう少し消火活動を続けないと、また容易に燃えだしてしまいます(皮膚炎の再燃)。
 この皮膚内のただれが治ってくると、皮膚炎の悪化、繰り返しが少なくなってきます。ではどうすれば良いのでしょうか。答えは、一見治ったと思われる皮膚炎部位に、皮膚炎が再度悪化しないことを確認しながら、治療薬のステロイド外用薬の塗る回数を少しずつ減らしながら、その代わりに保湿剤の塗る回数を増やしていきます。これを“プロアクティブ療法”といい、皮膚炎治療の世界的標準治療法となっています。皮膚表面が良くなっても中止するのではなく、1~2週間後に再度受診し、それ以後の軟膏の使用方法の指示を受けましょう。

 治療の継続により、つるつるした良い皮膚の状態が長く続けば、皮下のただれも、軽快し急に悪化することが少なくなってきます。ただし皮膚の厚さが薄い顔面、頸部などで皮膚炎が継続している場合は、ステロイド外用薬を長期に連用すると副作用が生じやすいため、皮膚炎の軽快後は2歳以上では、タクロリムス軟膏、コレクチム軟膏の使用を考慮します。

⑤以上の方法でも軽快しないときは、皮膚炎以外の病気の可能性も

 ステロイド外用薬を使用しても皮膚炎が軽快しないときは、塗っている量の再確認(十分量と思っても実際は少ない)、十分な量でも良くならない場合は外用薬の強さのランクが合っていない、皮膚真菌症など他の皮膚疾患の可能性があり、いずれも受診して指示を受けましょう。

⑥予防

 子どもさんは、乳児期から思春期の前までは、皮膚表面の皮脂分泌量が少なく、大人を比べると皮膚の表面は大変乾燥しています。そのため、特に肌が弱い子どもさんでは、保湿剤を可能であれば全身にたっぷり使用しましょう。保湿剤の効果の持続は、数時間とされていますので、夜の入浴後に1回行なうだけでなく朝、できれば昼間にも行なうことをおすすめします。乳児期から学童期の子どもさんは、唾液、食物、汚れ、尿、便などが皮膚に付きやすい生活をしています。シャワー、ぬらしたタオルなどで優しくこれらを取り除き、その後たっぷりと保湿剤を塗り、皮膚の表面を乾燥、こすれなどから守ることで、子どもさんの皮膚トラブルを軽減、または予防しましょう。

2021年09月05日