院内報

元気な発熱ならLet it Be

  昨年12月31日に日本で最も国民的人気グループであったSMAPが解散し、SMAPファンにとっては大変寂しい年となりました。表題のLet it Beですが、SMAP以上に世界的な人気グループであったビートルズ活動中の最後シングル盤のタイトルです。

 ところでLet it Beの意味は?と聞かれると私のような英語が不得意な人は返答に困ってしまいます。Let it Beを辞書で調べてみますと「ありのままに」、「自然の成り行きにまかせる」、「そのままにしておきなさい」などの意味があり、また「心配するな」とのニュアンスも含んでいると書かれています。

 今回のお話しは、小児科クリニックで訴えの多い発熱について考えてみます。
 皆さんは、風邪などにかかるとなぜ熱が出るか考えられたことはありますか?子供さんに限れば、発熱の原因の8~9割は風邪などのウイルス感染症です。外来で使用できるウイルスに効果のある薬は、インフルエンザ(タミフルなど)と水ぼうそう(アシクロビルなど)に対する薬しかないのです。熱が出ると抗生剤が処方される場合がありますが、ウイルス感染症には抗生物質の効果は残念ながらありません。風邪薬も同様です。

  実は発熱そのものはウイルス・細菌感染症にかかった時に、大切な働きをしています。体内にウイルス・細菌が侵入し増殖すると、人はそれに対抗するために臨戦態勢をとります。その臨戦態勢の一つが体温を上昇させることです。体温が上昇するとウイルスなどの増殖が困難になり、またウイルスなどを撃退する免疫力の働きも高まります。また安静にすることも、免疫力を高めることにつながります。発熱は感染症の初期には必要であり、無理に体温を下げるのは好ましくないのです。

 発熱があり診察を受け、風邪などの可能性があり少し経過見ましょうと言われても、発熱の多くは2~4日ほど続きます。特に夜間は高熱となりやすく大変寝苦しくなりますが(ご両親も高熱が出れば夜はぐっすりと寝ることはできませんね!)、朝熱が少し下がり気味で、おもちゃなどで遊ぶことができる、食欲低下はあるが水分は摂取できるなど全身状態が比較的良好なら少し様子を見ていただいてよいでしょう。発熱した後、すぐに熱が下がらないからといって解熱剤の使い過ぎはお薦めできません。治癒する期間が長引く可能性があるためです。小児の解熱剤は作用が穏やかで、期待するほど下がらないこともあります。夜などに高熱で泣いてばかりいる、痛みを強く訴える時などに限定して使用しましょう。  子供さんの発熱で注意していただくことは

①生後半年までの赤ちゃんの発熱

②元気がない、ぐったりしている、顔色が悪い、いつもの発熱時と様子が異なる

などは単なる風邪などのウイルス感染症ではなく細菌感染症等の可能性もあるため早めの受診が必要です。

 赤ちゃん以外の子供さんで、診察を受けた上で発熱期間が3日以内であり、比較的元気なら

    Let it Be (発熱はそのままで、すぐには心配しないで)

 ただし発熱が4日以上持続している時は再度診察を受けてください。

 

 

2017年10月23日

ドイツの子供さん


 今年の夏にドイツ在住の2歳の子供さんを診察する機会がありました。母の実家のある日本に帰省されており、発熱が3日ほど続いていましたが、全身状態が良好なため、薬なしでもう少し様子を見ていただくことにしました。その際ドイツでの風邪、発熱に関してお聞きしましたが、元気があれば抗生物質のみならず風邪薬さえも出してもらえないとのお話しでした。

 ヨーロッパの多くの国では、発熱を伴う風邪(気管支炎、副鼻腔炎も含めて)、軽度な中耳炎などに対して初めから抗生物質を処方する国は少なく、日本では抗生物質をすぐに使用するような細菌感染症も、はじめは抗生物質を使用せず経過観察する場合が多くあります。

 抗生物質は、肺炎をはじめとした重い細菌感染症を治癒させることができるようになり、人類に多大な恩恵を与えてきました。しかしその乱用の結果、現在世界各地に抗生物質が効かない「薬剤耐性菌」が拡大しています。2015年11月にNHKの番組で“治る病気が治らない!?~抗生物質クライシス(危機)~”が放送されました。抗生物質の過度の使用を警告する内容でした(NHK、抗生物質 で検索できます)。

 抗生物質は使えば使うほど必ずその抗生物質に効果のない耐性菌が出現し、さらに別の抗生物質が開発され、また新たな耐性菌が出てくるという繰り返しの歴史でした。製薬会社も膨大な開発費を使って新たな抗生物質を作っても耐性菌が出現すれば売れなくなるため、現在新しい抗生物質の開発はほとんど行われなくなっています。

 特に小児科領域では、有効性のある抗生物質がどんどん少なくなってきているのが現状です。今後抗生物質の使用頻度を下げなければ、耐性菌の増加で赤ちゃん、老人、基礎疾患のある方を含めて多くの人々の命を脅かすことにつながります。

 米国では2015年3月、オバマ大統領は国を挙げた対策を宣言し不必要な抗生物質の処方の削減などに乗り出しました。日本でも今年6月に厚生労働省が抗微生物薬適正使用の手引きを公開し、抗生物質の使用量を減らすよう求めています。

 

 当院は耐性菌の出現を少なくするために、本当に必要性がある時のみ抗生物質を処方し、人類の宝である抗生物質を末永く大切に使用できるよう努力していますので、ご理解よろしくお願いします。



2017年12月11日

ドイツの子供さん2

 20年~30年前は、小児科医は発熱すれば抗生剤を出すという時代でした。恥ずかしながら私も発熱すれば抗生剤を処方していました。その理由として、乳幼児の細菌感染症は、はじめは普通のかぜなどのウイルス疾患と区別が困難で、時として重篤になること、外来では今日のように少量の血液で、短時間で測定できる検査機器がなく、ウイルス感染症と細菌感染症の区別が困難であったことなどの理由からです。

 

 現在では

①乳児期にヒブワクチン、肺炎球菌ワクチンが定期接種化され、重篤な細菌感染症が著明に減少したこと

②外来で少量の血液検査で、簡単かつ短時間でウイルス感染症と細菌感染症かの推測が可能になったこと

③乳幼児期には数多くのウイルス感染を受けていることが明らかとなり、発熱の多くはかぜなどのウイルス感染症であり、抗生剤を使用しなくても治癒することが多いこと

④かぜなどのウイルス感染症の後に合併することの多い軽度の細菌性中耳炎、副鼻腔炎などは、抗生剤を使用した場合と使用しない場合との比較で治癒期間に差がないこと

 などの理由から一般小児科外来で、病初期に直ちに抗生剤を必要とする疾患は多くありません。

 発熱早期に抗生剤を服用し3~4日で解熱した場合、抗生剤の効果があったと思いがちです。でもその多くはウイルス感染症であり抗生剤を内服しなくても治癒することが多いと思われます。発熱があるから、のどが赤いから、黄色い鼻水が出るから(副鼻腔炎:よく見られる普通のかぜは、初期には鼻水が透明でしばらくして黄色となります。医学的に鼻水が主症状のかぜを鼻副鼻腔炎といいます)、中耳炎があるからといっても、抗生剤を内服しなくても治癒する場合が実際は多いのです。

 

 また抗生剤を頻回、長期間にわたり使用すると、鼻、のど、腸の中に多く生息している善玉菌(私たち体の中で悪玉菌が増えないように守ってくれています)が減少し、抗生剤の効きにくい耐性菌を含めた悪玉菌が増加してきます。3歳頃までは腸の中に多種類の善玉菌をより多く保つことが、それ以後の健康に非常に大切である可能性があるとの研究、腸内細菌が安定していない幼少期に抗生剤の長期にわたる投与が、大きくなって難病である潰瘍性大腸炎、クローン病などの腸疾患の発症率を上げているという最近の研究報告もあります。

 もちろん溶連菌感染症、強い咳が認められるマイコプラズマ感染症、10日以上多量の黄色い鼻汁の持続が見られる、発熱と耳痛がある中耳炎(中等度以上の中耳炎)、血液検査などで細菌感染症の疑いが強く示唆される場合などに対しては、抗生剤は必要です。肺炎などの重い細菌感染症の疑いがある場合、または診断がついた段階では直ちに抗生剤を使用する必要があります。また例外として基礎疾患がある子供さんでは、予防的に抗生剤を使用することがあります。。

 前回述べましたように、抗生物質は人類の命を救ってくれた宝物です。その宝物である抗生物質を末永く大切に使用していきたいと考えています。そのため当クリニックでは発熱などで来院され、診察で全身状態が比較的良好と判断した場合は、直ちに抗生剤の投与は行わず経過観察させていただく治療方針で診療を行っています。ただし発熱が持続する、元気がない、水分をほとんど取らない、顔色が悪いなどの所見があれば、細菌感染症をはじめとした入院などを要する疾患の可能性がありますので早めの受診(夜間、休日では救急病院)をお願いいたします。

 

2018年01月31日

気管支の掃除屋さん

 秒速45m(時速160km) これは何の速さを示していると思いますか?
答えは、台風の風速でもあり、特急列車、スポーツカーの速度でも正解となりますが、人に限ると“咳”の速さが答えとなります。“くしゃみ”ですともう少し早く時速300km前後あり、新幹線はやぶさと同じくらいの速度となります。

 咳により痰を気管支からのどへ排出するためには、台風並みの風速が必要です。ゆっくりと息を吐く程度では痰は排出できないのです。では“かぜ”をひくとなぜ咳が出るのでしょうか。それはかぜの初期では、気管支に入って増殖した風邪ウイルスを、また数日後はウイルスにより障害を受けた気管支粘膜から生じた痰を、あるいは夜間にのどから気管支に入り込んだ鼻水をのどまで排出するために咳が出ているのです。特に夜間は気管支とのどが水平となっており、起きている時より咳で痰などが出やすくなります。
 外来でしばしば、子どもさんが夜間に咳き込んで熟睡できないため(ご両親も同様に睡眠不足となりますが)何とか止めてほしいとよく言われます。しかし咳を強力に止めてしまうと痰が気管支に詰まってさらに苦しくなったり、肺炎などへ進展する可能性があるのです。


 

 かぜをひいた時の熱、鼻水、咳は生体の防御反応の一つです。熱があるから下げる、鼻水があるから止める、咳が出るから止めるではないのです。気管支に存在するウイルス、痰など体にとって有害なものをのどまで排出する必要があって咳が出ており、ある程度は許容することも大切なことです。
そのため子どもさんでは強力な咳止めは、状態を悪化させたり、薬自体の副作用が心配ですので、咳止めを使用する場合は作用の軽い咳止め程度にとどめます。痰などを溶かす、あるいは気管支を広げて痰を排出しやすくする薬などを使用することが理にかなっています。また部屋を加湿する、水分を多めにとることも痰を排出しやすくします。咳は、普通のかぜですと多くは7~10日ほどで減少してきます。かぜ薬は夜間よく眠れるようになったら中止してよいでしょう。特に保育園、幼稚園などで集団生活している子どもさんでは、繰り返して違ったかぜをひきますので、咳が出ているからといって飲んでいると、1年間の内かなりの期間飲むことになりますのでお薦めできません。

 “咳が出ていても、積極的に止めない”。これがかぜの治療の大切なキーポイントです。 ただし以下の場合は早めの受診が必要です。①1週間を過ぎても咳が増強している場合(百日咳、マイコプラズマ感染症の可能性)②ヒューヒュー・ゼーゼーを伴う咳(RSウイルス感染症、ヒトメタニューモウイルス感染症、気管支喘息の可能性、呼吸が苦しい時は夜間でも受診が必要)③発熱が4日以上持続し、元気がない、咳が増強している(肺炎の可能性) など

 

2018年04月10日

鼻の掃除屋さん

 “鼻水が1日で1200ml程度鼻腔内(鼻の中)で作られ、ゆっくりとのどへ流れている”ことをご存知でしょうか”。この量はかぜをひいてる人、または花粉症の人でもなく、全く健康な大人が1日で産生されている鼻水の量を示しています。


 鼻の大切な働きの一つとして、吸い込まれた空気をきれいにすることがあげられます。いわば鼻は空気清浄機にたとえることができます。私たちが吸い込んだ空気は一見きれいに見えますが、その中には目に見えない小さなゴミ、微粒子、細菌、かぜウイルスなどが数多く含まれており、これらを鼻腔内の粘膜表面で捕らえ鼻水の中に取り込み汚れた鼻水となります。その汚れた鼻水をのど方向へ流し、胃を経由し、最終的には便とともに体から排泄しているのです。

 “鼻水は、ウイルス、細菌、微粒子などヒトにとって不要なものをゴミとして鼻からのどへ、または鼻孔(鼻のあな)から排出するために必要なのです。”

 かぜのひくと、なぜ大量の鼻水が産生されるか考えてみましょう。かぜのひきはじめには、鼻腔内に侵入したかぜウイルスが大量に増殖しています。このままでは大変なことになりますのでかぜウイルスを鼻腔内から外へ、あるいはのどを通って胃の中へ押し流すために通常量より大量に鼻水が産生されます。鼻水が鼻腔内にたまり“鼻づまり”となり、あふれて鼻孔から排泄され、“目に見える鼻水”となって出てきます。また健常時より大量にのどへも鼻水が流れています。胃内へかぜウイルスが達すれば、胃内ではかぜウイルスは増殖できませんのでそのまま便とともに排泄されることになります。

 また鼻水の中には分泌型IgAという免疫蛋白質が含まれています。この蛋白質は鼻腔内で直接かぜウイルス、細菌の働きを抑える、鼻粘膜の細胞表面に付着し細胞内でかぜウイルスの増殖を防ぐ働きがあり、かぜをひいた時の助け人となります。かぜをひいて数日経過すると、鼻水は透明から白色または黄色で粘り気のある鼻水へと変化していきます。これはかぜウイルスとその後に増殖した細菌と体が戦った後の白血球などの残骸で、やはり汚れた不要な鼻水であり、鼻をかんで外に出す、あるいは飲み込んで便として排泄する必要があります。黄色い鼻水は10日以上大量に持続しなければ、抗生剤は不要で自然に軽快していきます。

 かぜの初期にはさらさらした大量の鼻水が産生されるため、夜間にのどから鼻水がしばしば気管支に入り込み咳の原因となり夜間睡眠が妨げられることになります。しかし咳は気管支に入り込んだ鼻水をのどまで排出し、肺炎とならないように予防しています。


 かぜで来院された時に、ご両親からしばしば“鼻水が大量にでているから止めてほしい”とよく言われます。しかし鼻水産生を強力に抑制することは、鼻の中で大量に増殖したかぜウイルスが排泄できなくなり、かぜの状態がより悪化することにつながります。また一部の鼻水止めの薬は脳へ作用し、眠気、痙攣などを生じやすくする、認知機能に影響を及ぼすなどの副作用もあります。かぜをひいた時に、ウイルス、細菌などを含んだ汚れた鼻水は止めるのではなく、鼻腔内から排泄させることが最も大切なことなのです

 そのため対策としては①ゆっくりと左右の鼻を交互にかむ。②鼻がかめない乳幼児では市販されている鼻水吸引器を使用する(ただし頻回に行なうのは鼻の粘膜を傷つけやすくなるため注意が必要です)③空気が乾燥していると鼻づまりが起きすくなるため加湿器を使用する。また加湿をすると鼻の奥に詰まった鼻水も柔らかくなりのどへ排出しやすくなります。④粘調な鼻水を溶かす作用のある薬を使用することなどです。しかし鼻水、鼻づまりがすぐに解消し、子どもさんがぐっすりと眠れるようになる魔法の薬はありません。鼻水の多くは7日から10日ほどで軽快していきますので、昼間に機嫌が良いようであれば焦らず気長に待つことも大切なことです。


 “鼻水が出ていても、積極的に止めない”これもかぜ治療の大切なキーポイントです

2018年05月29日

半分、青い。

 2018年度上半期のNHK連続テレビ小説のタイトルが「半分、青い。」で、現在放送中です。岐阜県東濃地方で生まれたヒロインである楡野鈴愛(にれのすずめ)が、故郷の岐阜県と東京を舞台に高度成長期の終わりから現代まで漫画家を志し、紆余曲折を繰り返しながら成長していく物語です。江南市の木曽川の川岸もロケ地として鈴愛と律(りつ:誕生日が同じ幼なじみで大の仲良しの男の子)が頻繁に訪れる場所として出てきました。

 鈴愛は小学3年生の時(1980年)に左耳に異変を感じるようになり、町医者を受診し名古屋の大学病院を紹介され精密検査の結果、医師から二度と聴力は戻らないと宣告されます。彼女は左耳の聴力を失い、律の前で涙を流しますが、その後「左耳で小人が踊っている」と前向きに捉え、律や家族の思いやりに支えられながら成長していきます。

 ドラマ上の話ですが、鈴愛が難聴となった原因は“おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)”だったのです。自覚症状が無いまま“おたふくかぜ”に感染し、難聴を発症したのです。日本ではおたふくかぜワクチンの発売開始は1982年ですので、ワクチンによる難聴予防はできない時代でした。


 おたふくかぜは軽い病気と思われがちですが、実際には様々な合併症を伴うことがあります。耳下腺炎(ほほが腫れます)、合併症として10~100人に一人の割合で見られる無菌性髄膜炎は後遺症もなく治りますが、比較的頻度が高く、生涯にわたり問題となるのが“おたふくかぜ罹患後の難聴(ムンプス難聴)”です。音を感じる神経がおたふくかぜウイルスによって壊されてしまいますので、現在の医学では治すことはできません。大きくなってかかると、難聴だけでなくめまいや耳鳴りを伴って日常生活に大変支障をきたすことになります。

 自然感染ではムンプス難聴は約1,000人に1人の割合で発生しますが、おたふくかぜワクチン接種済者ではきわめてまれです。

 日本耳鼻咽喉(いんこう)科学会が昨年発表した調査では、2015~16年の2年間で、少なくとも全国で348人がおたふくかぜのウイルス感染が原因で難聴になり、うち両側難聴16例を含む274人に重い難聴が残ったと報告されています。

 “でもおたふくかぜには有効なワクチンがあります。”

 多くの先進国ではおたふくかぜワクチンが定期接種となっており、計2回の接種が行われています。そのため、おたふくかぜ罹患後の難聴はほとんど見られません。日本では残念ながら任意接種となっていますが、ぜひ接種したいワクチンです。日本小児科学会は 2 回の予防接種を推奨しています(1歳と小学校入学前の1年間)。2018年5月に17の学会などでつくる予防接種推進専門協議会はおたふくかぜワクチンの定期接種を求める要望書を厚生労働省に提出しました。でもまだ定期接種となっていませんので、待っていて難聴になってからでは遅いのです。


 大切な子供さんのために、おたふくかぜワクチンを2回プレゼントしましょう!

2018年07月05日

ピッカピカの一年生

 “ピッカピカの一年生” 大変懐かしく思い出されるこのCMフレーズは、1978年から十数年にわたり小学館の学習雑誌『小学一年生』のCMシリーズとして放送されました。日本全国津々浦々のピッカピカの新小学一年生の児童が、カメラに向かって小学校入学後の抱負などを話すテレビCMで、一般の子供らしい無邪気なリアクション、コメントや地方ならではの自然豊かな背景などが視聴者に大変好評を博しました。gooランキングの「昭和の日」にちなんで発表された「秀逸すぎた昭和の懐かしCMフレーズ」では、なんと第1位に選ばれています。

 今回は、食物アレルギーに関するお話です。離乳食開始後に、顔面、体などに急に蕁麻疹が出現し来院する子どもさんは小児科外来ではしばしば経験します。乳児期の蕁麻疹は、大部分が食物アレルギーにより生じます。乳児期の食物アレルギーの原因食物は、卵、牛乳、小麦の順で多く、0歳児ではこの3つで約95%を占め三大アレルゲンと呼ばれています。蕁麻疹などのアレルギー反応は、アレルギーの原因となる食品に含まれている蛋白質(アレルゲン)に対して体が、異物とみなして過剰に反応して起こります。過剰な反応を起こすためには、過去にアレルゲンが体の中に入って、それを攻撃する物質(抗体)が多く作られている必要があります。

 アレルギーを発症した子どもさんの一部は、今までに原因となる食物の摂取歴がなく、卵、乳または小麦製品を初めて摂取して発症しています。初めて摂取したのになぜアレルギー反応が生じたのか不思議ですね。このような子どもさんにアレルギーを引き起こしたと推測される食物蛋白に対して攻撃する抗体の有無を血液検査で調べると、抗体が存在する(陽性)ことが多く認められます。この検査の注意点として、抗体が陽性であっても十分量摂取して無症状の場合もしばしば認められます。このような例では食物アレルギーはないと判断します。ある食物の摂取でアレルギー症状の出現が認められ、血液検査でその食物蛋白に対する抗体が陽性の場合に初めて食物アレルギーを疑うことになります。
 

 以前は母親が摂取した食物が、母乳から子どもさんの体内に入り、抗体が作られるとの説から、母親が原因食物の摂取を控えれば、子どもさんの食物アレルギー発症を予防あるいは軽減できると考えられた時期がありました。しかし現在ではその経路での関与は非常に少ないと考えられています。出生直後から母乳の摂取歴がなく、ミルクのみで育っている子どもさんでも、初めて卵を食べてアレルギー反応が起きるからです。
 

 最近「経皮感作」という新しい知見が出てきて、食物アレルギーの概念は大きく変わってきました。
 

 2008年、イギリスのLackという小児科医が、ピーナッツアレルギー発症に関して“①皮膚炎に塗ったピーナッツオイルが発症リスクとなる、②ピーナッツの初回摂取でも発症する、③家族のピーナッツ摂取量が多いことが発症リスクとなる”などの事実から、「食物アレルギーは、荒れた皮膚表面から食物抗原が皮膚内へ入り込むことにより生ずる」との新しい概念を発表しました。

 湿疹の程度が強い赤ちゃん(アトピー性皮膚炎)では、食物アレルギーが高率に合併すること以前から知られていました。その理由として、アレルギー素因の強い赤ちゃんでは、これら2つのアレルギー疾患が同時に発症しやすいためと考えられてきました。しかし、Lackなどの研究から、“通常では皮膚内へ侵入できないほどの大きな環境中の食物蛋白(アレルゲン)が、湿疹、アトピー性皮膚炎のある子どもさんでは、ひび割れた地面のように荒れた皮膚表面から皮膚内に入り込むことにより、感作(そのアレルゲンに対して抗体を作ってしまうこと)が成立すること”が明らかとなってきました。皮膚の表面に多くの脂がある健常な皮膚は、通常これらのアレルゲンを通しませんが、湿疹などで皮膚表面が傷ついてしまうと、アレルゲンの皮膚内への侵入が容易となります。これを「皮膚のバリア障害」といいます。


 現在では食物蛋白が繰り返し荒れた皮膚内に侵入することにより、食物アレルギーが発症するとの説が有力となっています。


 赤ちゃんの肌は、①生後3ヶ月を過ぎると肌の表面を覆っている皮脂量が減少し乾燥肌になりやすくなる、②大人の肌より皮膚の厚さが薄くて傷つきやすい、③特に顔は唾液がつきやすく容易に湿疹ができやすいなどの特徴があります。


 そこで現時点での、乳児期における食物アレルギーを少しでも予防、軽症化するために
① 兄、姉、ご両親などが食物アレルギーまたはアトピー性皮膚炎である家庭では、出生直後から保湿剤を毎日使用する。
② 少なくとも離乳食を開始するまでは、顔面などに皮膚炎があれば、食物抗原が容易に入らないようにするためにステロイド軟膏を使用し皮膚炎を軽快させ、保湿剤の使用で皮膚の荒れが少ない状態を維持すること。


 などが対策として考えられています。

 またステロイド軟膏、保湿剤の使用法の注意点としては、効果を十分発揮するために少量をすりこむのではなく、たっぷりと、のせるように塗ることが大切です。

 

 赤ちゃんの肌は “「ピッカピカ肌の人生一年生」” で!!

 

2018年09月02日

人見知り

 赤ちゃんは、生後6ヶ月頃になると、お母さんなど日常的に養育している身近な人と、それ以外の人を区別できるようになり、いわゆる“人見知り”が始まります。単身赴任や長期出張などで家をあけがちなお父さんに対しての“パパ見知り”もあります。逆に大家族の中で生まれた赤ちゃんは、出生直後から家族みんなでかわいがられ育てられます。そのため身近で多くの時間を過ごしてきた人々に対しては、人見知りはほとんど見られません。離れて暮らしているおじいちゃん、おばあちゃんに対して人見知りする赤ちゃんでも、接する時間が増えるにつれ、次第に人見知りもなくなってきます。多くの時間を一緒に過ごすことにより、この人は仲間であり、安心できると感じるようになってくるからです。

 前回に続いて食物アレルギーのお話です。人は、生命を維持するために絶えず食物を摂取する必要があります。特に蛋白質は、体をつくる主要な成分であるとともに、酵素などの生命の維持に欠かせない多くの成分になります。私たちが日常で摂取している蛋白質は、動物、食物由来であり人の蛋白質とは異なっています。しかし大多数の人では、摂取した蛋白質は異物と認識されず、アレルギー反応を引きおこすことなく体内に取り込まれ、私たちの体の中で再利用されています。

これは、“免疫寛容(めんえきかんよう)”といわれている仕組みがあるためです。

 免疫寛容とは“口から取り込んだ食物に対して人見知りをしない”ことにたとえることができます。免疫寛容の働きにより、口から入った蛋白質を仲間と認識し、腸内で分解し体の中に取り込こむことができます。免疫寛容があるからこそ、人が食物を利用し生きていくことができるのです。ところが食物アレルギーのある子どもさんでは、経口摂取した蛋白質に対して、異物(他人)と認識し、これを排除しようとしてアレルギー反応を引き起こします。これは摂取した食物に対して“人見知り“をして、大泣きし拒否している状態にたとえることができます。

 前回お話ししましたイギリスの小児科医Lackは、ピーナッツアレルギー患者さんから得た詳細な観察結果から“口から摂取した食物蛋白質に対しては免疫寛容が誘導されるが、皮膚から浸入した食物蛋白質に対しては感作(アレルギー反応が起きやすい状態になること)が成立する”との説を発表しました(2008年)。荒れた皮膚から食物蛋白質が皮膚内に入り、他人と認識される前に、口からその食物蛋白質を摂取し仲間と認識させることの重要性を説いています。この説は“食物の摂取開始時期を遅くすれば食物アレルギー発症が予防できる”との概念が覆され、世界的に大きなインパクトを与えました。

 この説を実証する研究としてLackらはピーナッツアレルギーの摂取時期に関する研究で、ピーナッツアレルギーを起こしやすいと考えられる子供さんを対象に、生後4~11か月の間にピーナッツを開始すると、除去した群と比べピーナッツアレルギーが減少したことを発表しています(2015年)。また日本小児アレルギー学会は、日本で行われた卵アレルギーに関する研究結果から、生後6か月未満で卵アレルギーを発症しやすいリスクのある(=痒みを伴う湿疹がある)乳児に対して、“卵アレルギー発症予防のために、湿疹のない状態にした上で、離乳食での卵摂取を遅らせるのではなく、むしろ早期に微量摂取を開始すること”を推奨するようになっています(2017年)。またすでに卵アレルギーになっている乳児では、摂取によってアレルギー症状がおきる危険も伴うため、必ず医師の指導のもとに摂取を開始することを求めています。湿疹のない乳児では、卵アレルギーを発症するリスクが高くないため、母子手帳などに書かれた離乳食の進め方に従って、卵の開始をすすめています。

 現在までの研究では、ピーナッツ、卵以外の食品については、早期から食べ始めることでアレルギー発症が予防できるかどうかまだ十分にはわかっていませんが、離乳食全般を遅らせることは、食物アレルギー発症予防につながるという考え方は否定されつつあります。

 0歳での食物アレルギーの3大原因は、卵、牛乳、小麦であり、これらの食品の摂取開始時期を遅らせることは問題がありそうです。でも逆に早すぎると、消化管機能が十分でないため蛋白質が十分に分解されず、免疫寛容が誘導されない可能性があります。がつるつるした状態であれば、赤ちゃんが人見知りをしないために比較的早期から多くの人と接することと同様に、乳児期に食物を制限するのではなく、生後5~6ヶ月頃から少しずつ食物を摂取しながら、色々な食物に“人見知りしないように”なれていくことが大切と思われます。顔などに皮膚炎があり、すでに食物に感作されている可能性がある子どもさんでは、小児科で皮膚炎の治療と共に、卵、牛乳、小麦などに感作されているかどうかの検査を受けて下さい。たとえ感作されていても(血液検査で、陽性であっても)必ずしもアレルギー反応が起こるわけではありません。数値によっては少量から摂取開始すれば、アレルギー反応を起こさないこともありますので、かかりつけの小児科医に離乳食の進め方について相談してみましょう。

 現時点での、食物アレルギーの発症予防、または軽症化対策としての離乳食の注意点を下記にまとめてみました。
① 湿疹がある場合は、離乳食開始前に湿疹を改善させておきましょう(ピッカピカの一年生 を参照して下さい)。

適切なスキンケア(洗って保湿すること)、治療を行っても湿疹が改善しない場合は、小児科医に相談して下さい。

② 湿疹がない状態の子供さんでは、生後5~6か月頃から離乳食を少しずつ開始しましょう。
③ 離乳食の進め方としては、少量から開始し、アレルギー症状が起きないことを確認しつつ時間をかけて少しずつ増量しましょう。
④ 離乳食を開始、または増量する時は、アレルギー症状が出る可能性もありますので、蕁麻疹などのアレルギー症状がおこった場合にすぐに受診がしやすい時間帯に摂取しましょう。

 “ピッカピカの肌を保ち続け”、食べ物に人見知りしないために“離乳食開始は遅れないように”しましょう!!

2018年11月06日