ピッカピカの一年生

 “ピッカピカの一年生” 大変懐かしく思い出されるこのCMフレーズは、1978年から十数年にわたり小学館の学習雑誌『小学一年生』のCMシリーズとして放送されました。日本全国津々浦々のピッカピカの新小学一年生の児童が、カメラに向かって小学校入学後の抱負などを話すテレビCMで、一般の子供らしい無邪気なリアクション、コメントや地方ならではの自然豊かな背景などが視聴者に大変好評を博しました。gooランキングの「昭和の日」にちなんで発表された「秀逸すぎた昭和の懐かしCMフレーズ」では、なんと第1位に選ばれています。

 今回は、食物アレルギーに関するお話です。離乳食開始後に、顔面、体などに急に蕁麻疹が出現し来院する子どもさんは小児科外来ではしばしば経験します。乳児期の蕁麻疹は、大部分が食物アレルギーにより生じます。乳児期の食物アレルギーの原因食物は、卵、牛乳、小麦の順で多く、0歳児ではこの3つで約95%を占め三大アレルゲンと呼ばれています。蕁麻疹などのアレルギー反応は、アレルギーの原因となる食品に含まれている蛋白質(アレルゲン)に対して体が、異物とみなして過剰に反応して起こります。過剰な反応を起こすためには、過去にアレルゲンが体の中に入って、それを攻撃する物質(抗体)が多く作られている必要があります。

 アレルギーを発症した子どもさんの一部は、今までに原因となる食物の摂取歴がなく、卵、乳または小麦製品を初めて摂取して発症しています。初めて摂取したのになぜアレルギー反応が生じたのか不思議ですね。このような子どもさんにアレルギーを引き起こしたと推測される食物蛋白に対して攻撃する抗体の有無を血液検査で調べると、抗体が存在する(陽性)ことが多く認められます。この検査の注意点として、抗体が陽性であっても十分量摂取して無症状の場合もしばしば認められます。このような例では食物アレルギーはないと判断します。ある食物の摂取でアレルギー症状の出現が認められ、血液検査でその食物蛋白に対する抗体が陽性の場合に初めて食物アレルギーを疑うことになります。
 

 以前は母親が摂取した食物が、母乳から子どもさんの体内に入り、抗体が作られるとの説から、母親が原因食物の摂取を控えれば、子どもさんの食物アレルギー発症を予防あるいは軽減できると考えられた時期がありました。しかし現在ではその経路での関与は非常に少ないと考えられています。出生直後から母乳の摂取歴がなく、ミルクのみで育っている子どもさんでも、初めて卵を食べてアレルギー反応が起きるからです。
 

 最近「経皮感作」という新しい知見が出てきて、食物アレルギーの概念は大きく変わってきました。
 

 2008年、イギリスのLackという小児科医が、ピーナッツアレルギー発症に関して“①皮膚炎に塗ったピーナッツオイルが発症リスクとなる、②ピーナッツの初回摂取でも発症する、③家族のピーナッツ摂取量が多いことが発症リスクとなる”などの事実から、「食物アレルギーは、荒れた皮膚表面から食物抗原が皮膚内へ入り込むことにより生ずる」との新しい概念を発表しました。

 湿疹の程度が強い赤ちゃん(アトピー性皮膚炎)では、食物アレルギーが高率に合併すること以前から知られていました。その理由として、アレルギー素因の強い赤ちゃんでは、これら2つのアレルギー疾患が同時に発症しやすいためと考えられてきました。しかし、Lackなどの研究から、“通常では皮膚内へ侵入できないほどの大きな環境中の食物蛋白(アレルゲン)が、湿疹、アトピー性皮膚炎のある子どもさんでは、ひび割れた地面のように荒れた皮膚表面から皮膚内に入り込むことにより、感作(そのアレルゲンに対して抗体を作ってしまうこと)が成立すること”が明らかとなってきました。皮膚の表面に多くの脂がある健常な皮膚は、通常これらのアレルゲンを通しませんが、湿疹などで皮膚表面が傷ついてしまうと、アレルゲンの皮膚内への侵入が容易となります。これを「皮膚のバリア障害」といいます。


 現在では食物蛋白が繰り返し荒れた皮膚内に侵入することにより、食物アレルギーが発症するとの説が有力となっています。


 赤ちゃんの肌は、①生後3ヶ月を過ぎると肌の表面を覆っている皮脂量が減少し乾燥肌になりやすくなる、②大人の肌より皮膚の厚さが薄くて傷つきやすい、③特に顔は唾液がつきやすく容易に湿疹ができやすいなどの特徴があります。


 そこで現時点での、乳児期における食物アレルギーを少しでも予防、軽症化するために
① 兄、姉、ご両親などが食物アレルギーまたはアトピー性皮膚炎である家庭では、出生直後から保湿剤を毎日使用する。
② 少なくとも離乳食を開始するまでは、顔面などに皮膚炎があれば、食物抗原が容易に入らないようにするためにステロイド軟膏を使用し皮膚炎を軽快させ、保湿剤の使用で皮膚の荒れが少ない状態を維持すること。


 などが対策として考えられています。

 またステロイド軟膏、保湿剤の使用法の注意点としては、効果を十分発揮するために少量をすりこむのではなく、たっぷりと、のせるように塗ることが大切です。

 

 赤ちゃんの肌は “「ピッカピカ肌の人生一年生」” で!!

 

2018年09月02日