気管支の掃除屋さん

 秒速45m(時速160km) これは何の速さを示していると思いますか?
答えは、台風の風速でもあり、特急列車、スポーツカーの速度でも正解となりますが、人に限ると“咳”の速さが答えとなります。“くしゃみ”ですともう少し早く時速300km前後あり、新幹線はやぶさと同じくらいの速度となります。

 咳により痰を気管支からのどへ排出するためには、台風並みの風速が必要です。ゆっくりと息を吐く程度では痰は排出できないのです。では“かぜ”をひくとなぜ咳が出るのでしょうか。それはかぜの初期では、気管支に入って増殖した風邪ウイルスを、また数日後はウイルスにより障害を受けた気管支粘膜から生じた痰を、あるいは夜間にのどから気管支に入り込んだ鼻水をのどまで排出するために咳が出ているのです。特に夜間は気管支とのどが水平となっており、起きている時より咳で痰などが出やすくなります。
 外来でしばしば、子どもさんが夜間に咳き込んで熟睡できないため(ご両親も同様に睡眠不足となりますが)何とか止めてほしいとよく言われます。しかし咳を強力に止めてしまうと痰が気管支に詰まってさらに苦しくなったり、肺炎などへ進展する可能性があるのです。


 

 かぜをひいた時の熱、鼻水、咳は生体の防御反応の一つです。熱があるから下げる、鼻水があるから止める、咳が出るから止めるではないのです。気管支に存在するウイルス、痰など体にとって有害なものをのどまで排出する必要があって咳が出ており、ある程度は許容することも大切なことです。
そのため子どもさんでは強力な咳止めは、状態を悪化させたり、薬自体の副作用が心配ですので、咳止めを使用する場合は作用の軽い咳止め程度にとどめます。痰などを溶かす、あるいは気管支を広げて痰を排出しやすくする薬などを使用することが理にかなっています。また部屋を加湿する、水分を多めにとることも痰を排出しやすくします。咳は、普通のかぜですと多くは7~10日ほどで減少してきます。かぜ薬は夜間よく眠れるようになったら中止してよいでしょう。特に保育園、幼稚園などで集団生活している子どもさんでは、繰り返して違ったかぜをひきますので、咳が出ているからといって飲んでいると、1年間の内かなりの期間飲むことになりますのでお薦めできません。

 “咳が出ていても、積極的に止めない”。これがかぜの治療の大切なキーポイントです。 ただし以下の場合は早めの受診が必要です。①1週間を過ぎても咳が増強している場合(百日咳、マイコプラズマ感染症の可能性)②ヒューヒュー・ゼーゼーを伴う咳(RSウイルス感染症、ヒトメタニューモウイルス感染症、気管支喘息の可能性、呼吸が苦しい時は夜間でも受診が必要)③発熱が4日以上持続し、元気がない、咳が増強している(肺炎の可能性) など

 

2018年04月10日