金平糖

 砂糖を原料として作られた“金平糖”というお菓子は、小さい角(つの)が表面に数多くあるカラフルで昔懐かしいお菓子です。金平糖は1546年にポルトガルからもたらされた異国の品々のひとつで、織田信長も宣教師からフラスコ(ガラス瓶)に入った金平糖が贈られています。当時は公家や高級武士しか口にすることが出来ない貴重な品でしたが、江戸時代後期には庶民の間にも広く普及しています。明治時代に入る と金平糖はおめでたい“高級菓子”となり、慶事の際の引き出物として使われるようになりました。現在でも皇室の慶事の際には、菓子器に入った金平糖が引き出物として使用されています

                                    
 今回は感染性胃腸炎に関するお話です。感染性胃腸炎の多くは、ロタウイルス、ノロウイルス、アデノウイルス、アストロウイルスなどによるウイルス性胃腸炎(胃腸かぜ)です。原因ウイルスの一つであるノロウイルスは、電子顕微鏡による観察では金平糖によく似た形をしています。一方ロタウイルスは車輪のような形をしています。ノロウイルスはアメリカのオハイオ州ノーウォーク(Norwalk)という町の小学校で急性胃腸炎が集団発生し、発症した子どもさんから初めて検出されたため、その町名に由来し、ロタウイルスは車輪(ラテン語でロタ(rota))の形状から命名されています。

 感染性胃腸炎は、乳幼児、高齢者では、嘔吐(吐くこと)、下痢を繰り返すことで脱水症状になりやすく、時に重篤となることがあります。特にロタウイルス胃腸炎は、乳幼児期では約40人に1人の割合で病気が重くなり、ワクチン導入前は5歳未満の感染性胃腸炎による入院例の約半数が、ロタウイルスが原因とされてきました。便の検査から、原因ウイルスが判明しても、現時点では感染性胃腸炎を引き起こすウイルスに有効な薬はありません。ウイルス性胃腸炎の治療において最も大切なことは、いかに脱水症を防ぎ、軽症で済ませることです。

 注意点として嘔吐、下痢があっても必ずしも“感染性胃腸炎”とは限らないことです。感染性胃腸炎以外の病気でも、病初期には嘔吐、下痢など伴う症状を呈することがあるからです。生後3ヶ月未満で発熱を伴う、黄色や緑または血液を含む嘔吐、強い腹痛、右下腹部の痛み、血便や黒色便などが認められる、呼吸障害(息苦しい)がある、意識障害があるなどの場合は、単なる感染性胃腸炎ではなく重篤な病気である可能性があり、早期の受診が必要です。


 脱水症の程度の簡単な見分け方として以下の症状を参考にして下さい。


 軽症:元気あり、目の落ち込みがない、口の中が湿っている、涙あり


 中等症:元気がない、のどの渇きがある、目の落ち込みが軽度あり、
     口の中がネバネバしている、涙が少ない


 重度:ぐったり、目の落ち込みが強い、口の中が乾燥している、涙が出ない


治療としての経口補水療法


 経口補水療法とは、水と電解質(塩分:Na、Cl)を経口的に(口から)補給する脱水症に対する治療法です。経口補水療法に用いられる経口補水液は、脱水時に不足している水と電解質を含み、それらの吸収速度を高めるために、糖質(ブドウ糖)が少量配合された飲料です。少量でもよく体内に吸収され、しっかりと水分・電解質の補充ができます。経口補水療法が世界で初めて注目されたのは、1971年に東パキスタン(現バングラデシュ)でのコレラ大流行時に経口補水療法が実施され、死亡率を30%から3.6%までに改善したことがきっかけでした。1980年代にユニセフは『子ども健康革命』を提唱して、その中で積極的に経口補水療法の普及に努めました。その後この経口補水療法が、脱水症における水・電解質補給の選択肢のひとつとして欧米を中心に注目を集め、2003年に発表された米国疾病管理予防センター(CDC)のガイドラインでは、小児の軽度から中等度の脱水状態に対しては経口補水液の使用が第一選択となっています。そこで、我が国でも、子どもを脱水から守るために『小児急性胃腸炎診療ガイドライン2017』が日本救急小児医療学会から発表されました。その内容は欧米のガイドラインと同様に、軽症から中等症までの脱水を伴う急性胃腸炎に点滴と同等の効果のある経口補水療法の早期の開始を推奨していることです。


 そこで軽症から中等症の脱水症では、早期に経口補水療法を行います。点滴するのと同等の有効性が示されていますので、子どもさんがいやがる点滴をしなくてもすみます。病院で処方されるソリタ-T 配合顆粒2号、または市販されているOS-1(ゼリーがおすすめです)などの経口補水液を使用します。ポカリスエット、アクエリアスなどは塩分(Na、Cl)が少なく、糖分が過剰でおすすめできません。また水やお茶も不適当です。吐き気があるうちは、少量ずつ投与することが推奨されています。小さじ1杯またはペットボトルのキャップ1杯(約5ml)から開始し、5分おきに投与します。スプーンで飲めない場合は、スポイドで飲ませてみて下さい。嘔吐が落ち着いて飲めるようになったら、1回量を増やします。5分~10分間隔で5 mL→10mL→20mL・・・などと増量をしていきます。5分~10分間隔で少しずつ増やすのがこつです。のどが渇いているため、一度に大量に飲んでしまうと嘔吐してしまうことにつながります。


 感染性胃腸炎では、脱水を防ぐために、下痢、嘔吐が始まったら、速やかに自宅で経口補水液療法を開始しましょう。

 

 “経口補水液は少しずつ、頻回にのませること”がキーポイントです。

 経口補水液を嫌がる子どもさんでは、凍らせシャーベット状にしたものを、あるいは暖めて飲ませてみて下さい。それでも飲めない場合は塩分を含んだ野菜スープ、チキンスープなど試してみましょう。授乳中の乳児では母乳はそのままで、ミルクも薄めず通常の濃度で、少しずつ、頻回に与えて下さい。また嘔気、下痢症状がつづいても、食事制限を続けることは好ましくありません。胃腸炎により腸の粘膜がはがれ落ちており、腸粘膜が新しく作られるためには食事からの栄養が必要なためです。食欲がないときは、お菓子、プリン、ヨーグルト、アイスクリームでもかまいません。少しずつ与えて栄養を取りましょう。食事内容は、脂肪分は避ける、また下痢がある場合はジュースなど糖分を多く含む飲み物は下痢を長引かせるため控えて下さい。

 経口補水療法を行なっても吐き気、嘔吐、下痢が持続し状態が改善しない時は、点滴が必要となります。元気がない、目が落ち込んでいる、脈が速い、手足が冷たいなどの症状がある場合は、重度の脱水状態となっているため、早期の入院が必要です。

 ノロやロタウイルスは、石鹸やアルコールでは簡単に死滅しないウイルスですが、石鹸で少し時間をかけ入念に手洗いをすることで、ただの水洗いでは落ちない手の脂をしっかり落とし、手の表面に付着したウイルスを剥がして流すことが出来ます。またノロやロタウイルスに効果的とされる消毒液が「次亜塩素酸ナトリウム」です。次亜塩素酸ナトリウムは家庭で使用されているキッチンハイターなどの塩素系漂白剤に含まれています。吐いたものや便が、衣類などに付着した場合は、表示されている使用濃度などを参考に希釈した次亜塩素酸ナトリウム液で消毒して下さい。流行時には感染者または、ほとんど症状がない軽症感染者の便にもウイルスが潜んでいるため、予防対策としては、入念な手洗いと鼻、口などからウイルスが侵入するのを防ぐためにマスクの着用が大切です。

 ノロウイルス、ロタウイルスは多くの種類があり、繰り返して感染することになります。特にロタウイルスは乳幼児期に初感染(初めてかかった)時に、重症になりやすいことが知られています。幸いなことにロタウイルスにはワクチンがあり、接種することによりすべてのロタウイルス胃腸炎を約80%予防でき、重症のロタウイルス胃腸炎に限ると約95%の予防効果が認められています。ロタワクチンの初回投与は、生後14週6日までに行なうことが推奨されています(少なくとも4週間の間隔をおいてロタリックスは計2回、ロタテックは計3回接種します)。我が国ではロタワクチンは任意接種のため有料となりますが、生後2ヶ月時の初回ワクチン接種時に、ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチン、B肝炎ワクチン+ロタワクチンをお勧めします。


 生後2ヶ月時には、大切な子どもさんへ他の予防接種に加えて“ロタワクチン”をプレゼントしましょう!!

2019年02月13日