ドイツの子供さん


 今年の夏にドイツ在住の2歳の子供さんを診察する機会がありました。母の実家のある日本に帰省されており、発熱が3日ほど続いていましたが、全身状態が良好なため、薬なしでもう少し様子を見ていただくことにしました。その際ドイツでの風邪、発熱に関してお聞きしましたが、元気があれば抗生物質のみならず風邪薬さえも出してもらえないとのお話しでした。

 ヨーロッパの多くの国では、発熱を伴う風邪(気管支炎、副鼻腔炎も含めて)、軽度な中耳炎などに対して初めから抗生物質を処方する国は少なく、日本では抗生物質をすぐに使用するような細菌感染症も、はじめは抗生物質を使用せず経過観察する場合が多くあります。

 抗生物質は、肺炎をはじめとした重い細菌感染症を治癒させることができるようになり、人類に多大な恩恵を与えてきました。しかしその乱用の結果、現在世界各地に抗生物質が効かない「薬剤耐性菌」が拡大しています。2015年11月にNHKの番組で“治る病気が治らない!?~抗生物質クライシス(危機)~”が放送されました。抗生物質の過度の使用を警告する内容でした(NHK、抗生物質 で検索できます)。

 抗生物質は使えば使うほど必ずその抗生物質に効果のない耐性菌が出現し、さらに別の抗生物質が開発され、また新たな耐性菌が出てくるという繰り返しの歴史でした。製薬会社も膨大な開発費を使って新たな抗生物質を作っても耐性菌が出現すれば売れなくなるため、現在新しい抗生物質の開発はほとんど行われなくなっています。

 特に小児科領域では、有効性のある抗生物質がどんどん少なくなってきているのが現状です。今後抗生物質の使用頻度を下げなければ、耐性菌の増加で赤ちゃん、老人、基礎疾患のある方を含めて多くの人々の命を脅かすことにつながります。

 米国では2015年3月、オバマ大統領は国を挙げた対策を宣言し不必要な抗生物質の処方の削減などに乗り出しました。日本でも今年6月に厚生労働省が抗微生物薬適正使用の手引きを公開し、抗生物質の使用量を減らすよう求めています。

 

 当院は耐性菌の出現を少なくするために、本当に必要性がある時のみ抗生物質を処方し、人類の宝である抗生物質を末永く大切に使用できるよう努力していますので、ご理解よろしくお願いします。



2017年12月11日