人見知り

 赤ちゃんは、生後6ヶ月頃になると、お母さんなど日常的に養育している身近な人と、それ以外の人を区別できるようになり、いわゆる“人見知り”が始まります。単身赴任や長期出張などで家をあけがちなお父さんに対しての“パパ見知り”もあります。逆に大家族の中で生まれた赤ちゃんは、出生直後から家族みんなでかわいがられ育てられます。そのため身近で多くの時間を過ごしてきた人々に対しては、人見知りはほとんど見られません。離れて暮らしているおじいちゃん、おばあちゃんに対して人見知りする赤ちゃんでも、接する時間が増えるにつれ、次第に人見知りもなくなってきます。多くの時間を一緒に過ごすことにより、この人は仲間であり、安心できると感じるようになってくるからです。

 前回に続いて食物アレルギーのお話です。人は、生命を維持するために絶えず食物を摂取する必要があります。特に蛋白質は、体をつくる主要な成分であるとともに、酵素などの生命の維持に欠かせない多くの成分になります。私たちが日常で摂取している蛋白質は、動物、食物由来であり人の蛋白質とは異なっています。しかし大多数の人では、摂取した蛋白質は異物と認識されず、アレルギー反応を引きおこすことなく体内に取り込まれ、私たちの体の中で再利用されています。

これは、“免疫寛容(めんえきかんよう)”といわれている仕組みがあるためです。

 免疫寛容とは“口から取り込んだ食物に対して人見知りをしない”ことにたとえることができます。免疫寛容の働きにより、口から入った蛋白質を仲間と認識し、腸内で分解し体の中に取り込こむことができます。免疫寛容があるからこそ、人が食物を利用し生きていくことができるのです。ところが食物アレルギーのある子どもさんでは、経口摂取した蛋白質に対して、異物(他人)と認識し、これを排除しようとしてアレルギー反応を引き起こします。これは摂取した食物に対して“人見知り“をして、大泣きし拒否している状態にたとえることができます。

 前回お話ししましたイギリスの小児科医Lackは、ピーナッツアレルギー患者さんから得た詳細な観察結果から“口から摂取した食物蛋白質に対しては免疫寛容が誘導されるが、皮膚から浸入した食物蛋白質に対しては感作(アレルギー反応が起きやすい状態になること)が成立する”との説を発表しました(2008年)。荒れた皮膚から食物蛋白質が皮膚内に入り、他人と認識される前に、口からその食物蛋白質を摂取し仲間と認識させることの重要性を説いています。この説は“食物の摂取開始時期を遅くすれば食物アレルギー発症が予防できる”との概念が覆され、世界的に大きなインパクトを与えました。

 この説を実証する研究としてLackらはピーナッツアレルギーの摂取時期に関する研究で、ピーナッツアレルギーを起こしやすいと考えられる子供さんを対象に、生後4~11か月の間にピーナッツを開始すると、除去した群と比べピーナッツアレルギーが減少したことを発表しています(2015年)。また日本小児アレルギー学会は、日本で行われた卵アレルギーに関する研究結果から、生後6か月未満で卵アレルギーを発症しやすいリスクのある(=痒みを伴う湿疹がある)乳児に対して、“卵アレルギー発症予防のために、湿疹のない状態にした上で、離乳食での卵摂取を遅らせるのではなく、むしろ早期に微量摂取を開始すること”を推奨するようになっています(2017年)。またすでに卵アレルギーになっている乳児では、摂取によってアレルギー症状がおきる危険も伴うため、必ず医師の指導のもとに摂取を開始することを求めています。湿疹のない乳児では、卵アレルギーを発症するリスクが高くないため、母子手帳などに書かれた離乳食の進め方に従って、卵の開始をすすめています。

 現在までの研究では、ピーナッツ、卵以外の食品については、早期から食べ始めることでアレルギー発症が予防できるかどうかまだ十分にはわかっていませんが、離乳食全般を遅らせることは、食物アレルギー発症予防につながるという考え方は否定されつつあります。

 0歳での食物アレルギーの3大原因は、卵、牛乳、小麦であり、これらの食品の摂取開始時期を遅らせることは問題がありそうです。でも逆に早すぎると、消化管機能が十分でないため蛋白質が十分に分解されず、免疫寛容が誘導されない可能性があります。がつるつるした状態であれば、赤ちゃんが人見知りをしないために比較的早期から多くの人と接することと同様に、乳児期に食物を制限するのではなく、生後5~6ヶ月頃から少しずつ食物を摂取しながら、色々な食物に“人見知りしないように”なれていくことが大切と思われます。顔などに皮膚炎があり、すでに食物に感作されている可能性がある子どもさんでは、小児科で皮膚炎の治療と共に、卵、牛乳、小麦などに感作されているかどうかの検査を受けて下さい。たとえ感作されていても(血液検査で、陽性であっても)必ずしもアレルギー反応が起こるわけではありません。数値によっては少量から摂取開始すれば、アレルギー反応を起こさないこともありますので、かかりつけの小児科医に離乳食の進め方について相談してみましょう。

 現時点での、食物アレルギーの発症予防、または軽症化対策としての離乳食の注意点を下記にまとめてみました。
① 湿疹がある場合は、離乳食開始前に湿疹を改善させておきましょう(ピッカピカの一年生 を参照して下さい)。

適切なスキンケア(洗って保湿すること)、治療を行っても湿疹が改善しない場合は、小児科医に相談して下さい。

② 湿疹がない状態の子供さんでは、生後5~6か月頃から離乳食を少しずつ開始しましょう。
③ 離乳食の進め方としては、少量から開始し、アレルギー症状が起きないことを確認しつつ時間をかけて少しずつ増量しましょう。
④ 離乳食を開始、または増量する時は、アレルギー症状が出る可能性もありますので、蕁麻疹などのアレルギー症状がおこった場合にすぐに受診がしやすい時間帯に摂取しましょう。

 “ピッカピカの肌を保ち続け”、食べ物に人見知りしないために“離乳食開始は遅れないように”しましょう!!

2018年11月06日