オーストラリアの世界で1番

 アボリジニの聖地として彼らが呼んでいた「ウルル(エアーズロック)」が、1987年にユネスコ世界遺産として登録されました。ウルルは、一枚岩でできており世界最大級ですが、正確には世界で2番目の大きさです。では世界一の一枚岩はどこにあるかというと、同じオーストラリアの西オーストラリア州にある「マウント・オーガスタス」で、ウルルの約2.5倍もあります。
 約50年後の話となりますが、もう一つオーストラリアが世界で1番になると予想されていることがあります。それは、オーストラリアが世界で1番目(最初)に子宮頸がんを撲滅する国になると考えられているのです。

 今回は、子宮頸がんに関するお話です。子宮頸がんは、子宮の入り口にできるがんで、多くのがんと異なり20代後半から多くなり、40歳前後でピークになります。最近は若い世代(20~40代)で増加しています。日本では、年間約1万人が子宮頸がんにかかり、毎年約2,800人の女性が子宮頸がんで亡くなっています。主な発生原因はヒトパピローマウイルス(HPV)の感染です。

 HPVはとてもありふれたウイルスで、性交渉の経験がある女性のうち50~80%はHPVに感染していると推計されています。男性の感染率も同様です。HPVには150種類以上の「型」があり、その中で少なくとも15種類はがんを引き起こす”高リスク型”HPVと呼ばれ、特に16型、18型が子宮頸がん全体の2/3以上の原因となっています。
 HPVに感染する人はたくさんいますが、その多くは免疫力によって排除されます。一部の人は排除されず持続感染(ウイルスを体内に持ち続ける)の状態となります。持続感染期間が長く続くと、がんに進行する可能性のある異常な細胞(“異形成”といいます)が増えてきます。軽度の異形成は、自然に治ることも多いといわれています。しかし高度の異形成(前がん病変)となると、子宮頸がんに進行する可能性が高くなります。そしてHPVの持続感染した一部に、子宮頸がんなどの病気が生じてきます。HPVに感染してから子宮頸がんに進行するまでの期間は、数年~数十年と考えられています。

頻度は少ないのですが、HPVに感染した女性は
子宮頸がんを発症する危険性があります。

<子宮頸がんワクチン(以下HPVワクチン)>
 HPVワクチンは、高リスク型のHPV16型、18型のHPV感染を防ぐ目的で行われます。ワクチン接種により、16型、18型による子宮頸がんの前がん病変の発生を“95%以上防ぐ”ことができます。効果は、接種後8~10年経っても持続することが確認されています。

<HPVワクチン定期接種の対象者>
 小学校6年生から高校1年生の女性です。
(標準的な接種時期は中学1年生)
 対象者は無料(公費助成)でHPVワクチンを接種することができます。
 ワクチンは、標準的には計3回接種します。

<副反応>
 接種した部位が赤くなったり、腫れたりすることがあります。これは数日で消えることがほとんどです。たまに微熱が出ることもあります。接種時の痛みや緊張から迷走神経反射を起こし、ふらふら感、冷や汗、血圧低下のため失神してしまうことが稀にあります。これについては、接種直後から30分程度安静にすることで対応が可能です。
 重大な副作用はきわめて稀です。日本国内でワクチン接種をした人の中に痛み、運動障害、不随運動、その他多彩な症状が報告されていますが、同様の症状はワクチンを接種していない同じ年代の女性や男性にも報告されており、因果関係は証明されていません。
また国内で承認された定期接種のワクチンですので、健康被害が生じた場合には「健康被害救済制度」の対象となります。

HPVワクチンは世界中で安全なワクチンとして認められており、2019年2月の時点で
92か国が、国の予防接種プログラムとして導入しています。

 HPVワクチン単独では、すべての型のHPV感染を防ぐことはできません。子宮頸がんの予防にはHPVワクチンによる一次予防がまず大切であり、次に、子宮頸がん検診で早期発見し、早期治療を受けること(二次予防)が重要です。

子宮頚がン予防には、
HPVワクチン接種と成人になった後の定期的な子宮頸がん検診の2つが大切です。

 すでにフィンランドでは、HPVワクチン接種者における子宮頸がんの予防効果を認めた報告が、オーストラリア、アメリカ、スウェーデン、イギリスにおいては、HPVワクチン接種者で若年女性の前がん病変の減少を認めその有効性が報告されています。我が国においても、新潟県での研究で、HPVワクチン接種者ではHPV16、18型に感染している割合が有意に低下しているとの報告、秋田県、宮城県及び松山市における研究では、HPVワクチン接種者では前がん病変の著名な減少が報告されています。


 オーストラリアでは2007年から12~13歳の女子にHPVワクチン接種が開始され、2013年からは男女ともに定期接種となり、さらに2018年からはワクチンの種類が、子宮頸がんの原因となるHPV型の約90%をカバーする9価ワクチン(9種類の型が入っています)へと変更されています。そのためオーストラリアでは2028年までには、子宮頸がんが10万人に4例未満まで減少し、さらに2066年には10万人に1例未満となり、先進国の中でも子宮頸がんを撲滅する最初の国になると予測されています。

 日本においては、HPVワクチンは2010年から公費で受けられる定期接種になり、接種率は70%以上でしたが、複数の副反応の報告を受けて厚労省が2013年6月に積極的なワクチン接種のすすめを中止しました。そのため「HPVワクチンは危険なワクチン」という誤った印象がまん延してしまい、接種率は1%以下に落ちてしまいました。 このままでは、我が国は子宮頸がんが今後さらに増加することが危惧されています。


 現在、国内外を問わずWHO(世界保健機構)、日本産科婦人科学会、日本小児科学会そしてノーベル賞を受賞された本庶佑氏など多くの医療団体および関係者がHPVワクチン接種の安全性と必要性を訴えています。


 WHOは最新の世界各国における解析結果と科学的根拠に基づき、HPVワクチンの安全性と有効性を繰り返し確認する一方で、日本において若い女性が本来予防しうるHPV関連がんのリスクにさらされている状況を危惧し、安全で効果的なワクチンが使用されていない日本の政策を批判しています。


 アメリカ臨床腫瘍学会も、『HPVワクチン接種は、子宮頸がんを引き起こすいくつかのタイプのHPVによる感染の一次予防に最適な戦略である。ワクチン接種の代わりになりうる予防戦略は他にはない』と推奨しています(2017年)。


 またHPVワクチンの種類についても、積極的に接種している米国、EUにおいては、すでに9価ワクチンが使われています。今後、厚労省が早期に“HPVワクチンの積極的な接種のすすめを再開すること、9価HPVワクチンを承認すること”を願っています。

国が積極的にすすめるまで、待っていては遅すぎます。
定期接種の対象者、定期接種の年齢を過ぎた未接種の女性の方も(有料となりますが)
ぜひ子宮頸がんワクチン接種をお願いします。

2020年05月14日