世界で2番目に高い山

 日本で2番目に高い山は、南アルプスの「北岳」(3,192m)ですが、世界では、カラコルム山脈にある「K2(ケーツー)」で標高は8,611mあります。19世紀末までカラコルム山脈の存在は知られておらず、その後カラコルム山脈が発見された際、標高が高い山々にカラコルム(Karakorum) の頭文字「K」を取って順に、K1, K2, K3, K4, K5 と測量番号がつけられました。その後、K2以外の山には名前が付けられ、K2だけがそのまま山の名前として残りました。登頂の難しさでは世界最高峰のエベレスト(標高8,848m)よりも上で、世界一登ることが難しい山とも言われています。

 今回は、乳児ビタミンK欠乏性出血症のお話です。脳内出血は、老人がかかるものと思われていますが、妊娠・分娩時に異常なく生まれた元気な赤ちゃんでも頻度は少ないのですが、脳出血を起こすことがあります。乳児ビタミンK欠乏性出血症は、主として生後 3 週から 2ヶ月までの母乳栄養児に発症し、8割以上に脳内出血がみられる重い病気です。

 ビタミンKは脂溶性ビタミンに分類されており、ほうれん草のような緑色の野菜に多く含まれています。食物からの摂取以外にも、ビタミンKを産生する腸内細菌の働きで腸の中でも作られています。ビタミンKは、血液が固まる際に必要不可欠な凝固因子の産生に深く関係しています。凝固因子が不足すると、外傷などの原因がなくても出血を起こしやすくなります。したがって、ビタミンKは正常な止血作用を保持するためにとても大切な物質です。その他、骨の成長過程にも重要であると考えられています。

 赤ちゃんはビタミンKが欠乏しやすく、「乳児ビタミンK欠乏性出血症」を発症するリスクを抱えています。
元気で生まれた赤ちゃんがビタミンK欠乏になりやすい理由として、
① ビタミンKは母から子への胎盤移行性が悪く、出生時の蓄えが少ない。
② 腸内のビタミンKを作る腸内細菌が少ない。
③ 母乳中のビタミンK含有量が少ない。
④ 腸からビタミンKを吸収する働きが弱い。 
などが関与していると考えられています。

 でもビタミンK2シロップを飲ませることで乳児ビタミンK欠乏性出血症を予防する
ことができます

 わが国では1989年に厚生省の研究班がビタミンK2シロップによる予防対策を発表し、出生時、生後1週間(産院退院時)、1ヶ月健診時の3回経口投与する方法が標準方式として定着しています。しかし、日本小児科学会新生児委員会が1999年から2004年までの6年間を対象とした全国調査で、ビタミンK2シロップ3回投与でも、乳児ビタミンK欠乏性出血症を起こしてしまった赤ちゃんがわずかながらいたこと、またヨーロッパ諸国において、3ヶ月間連日もしくは週 1 回のビタミンKの予防投与を受けた母乳栄養の赤ちゃんでは、乳児ビタミンK欠乏性出血症の発症はなかったことが報告されています。
2010年に乳児ビタミンK欠乏性出血症の改訂ガイドラインが発表され、2011年に一部が修正されています。修正されたガイドラインでは、これまでと同様に、出生時・生後1週間(産院退院時)・1ヶ月健診時の3回投与が推奨されていますが、合併症を持たない正期産新生児への予防投与について以下のような文言が新たに追加されました。

(1) 1ヶ月健診の時点で人工栄養が主体(おおむね半分以上)の場合には、それ以降の ビタミン K2シロップの投与を中止してよい。
(2)出生時、生後 1 週間(産科退院時)および 1ヶ月健診時の3 回投与では、我が国および EU 諸国の調査で乳児ビタミンK欠乏性出血症の報告がある。この様な症例の発生を予防するため、出生後3ヶ月までビタミンK2シロッ プを週1回投与する方法もある。
(3) ビタミンKを豊富に含有する食品(納豆、緑葉野菜など)を摂取すると乳汁中のビタミンK含量が増加するので、母乳を与えている母親にはこれらの食品を積極的に摂取するように勧める。

上記(1)を補足しますと、生後1ヶ月の時点でミルクが主体(半分以上)であれば、ミルクの中にはビタミンKが十分量含まれているので、以後のビタミン K2シロップの投与は中止も可能という意味です。

 我が国でも、出生後3ヶ月に達するまで、ビタミンK2シロップを毎週1回投与する方法が全国的に普及しつつあります。ビタミンK2シロップ4回以上内服する場合は有料(出産費用に含まれている施設もあります)となりますが、値段は比較的安いです。当院でも自費となりますがお渡しができますので、希望があればお申し付け下さい。

以上をまとめると
・元気で生まれた赤ちゃんが、生後3週から2ヶ月までの間にビタミンKの不足により脳に突然出血することがある。主に母乳栄養の赤ちゃんに起こりやすく、脳内出血を起こすと重篤な状態となり後遺症を残す、あるいは命に関わることがある。
・ビタミンK2シロップ計3回の内服で、赤ちゃんの脳内出血などを起こす乳児ビタミンK欠乏性出血症はほぼ予防可能であるが、計3回の内服でもわずかながら認められている。
・あくまで任意ですが、生後3ヶ月に達するまでの間、ビタミンK2シロップの毎週内服により確実に乳児ビタミンK欠乏性出血症を予防する方法がある。ただし生後1ヶ月の時点でミルクが主体(おおむね半分以上)の場合は、以後の内服は中止してもよい。

2020年04月11日