液状のり

  封筒をのりづけするために使い古した液状のりを使用しようとした時に、スポンジキャップに付着したのりが固まって出ないことをしばしば経験します。よく使用されていますのりメーカーのホームページでその対処法を検索すると以下のように記載してあります。
 “本体からスポンジキャップを外して、少し熱めのお湯(50度前後)に浸し(やけどに注意!!)、揉み洗いしてのりを落とします。”
  
 小児科外来では、腹痛を訴えて来院される最も多い原因は便秘です。便秘による腹痛は、虫垂炎(俗にいう盲腸)と間違うほどの強い痛みを生ずることがあります。おなかをくの字に曲げて歩行困難なため重篤な病気と考えてこられる家族もいます。このような場合、浣腸を行い排便後に腹痛がすっかり消失すれば、便秘が原因であったことになります。

 今回は便秘のお話です。毎日快便の人では、朝食を食べるとすぐに便意をもよおして排便します。これは朝食前の空っぽの胃の中に食べ物が入ってくると“自然に大腸が動き出し”便を直腸(肛門の近くの大腸を直腸といいます)に送り出し排便を促すからです。「次の食事が入ってきたから、たまっている便を排泄し大腸を空けて下さい」というわけです。これを胃―大腸反射といいます。胃―大腸反射は、おなかがいっぱいにならないようにしている大切な反射です。

 便秘の人では、この胃―大腸反射がうまく働いていません。快便の人では、胃―大腸反射により、空っぽの直腸内に便が入り便意を感じますが、この便意は直腸に便が入り込んだときから30分ほどで消失してしまいます。便秘の人では、直腸に硬い便がすでに長い間たまっていることにより便意を感じなくなっています。“便意を感じたらがまんせず早めにトイレへ行く習慣が、便秘を予防することにつながります。”

 便秘では、下記の悪循環を断つことが大切です。
   排便の我慢→直腸内便の貯留→便からの水分吸収
      ↑                 ↓
      排便時の痛み、肛門が切れる ← 便が硬くなる 

 便秘の対処法は、下記の液状のりのスポンジキャップが固まった時と似ています。
  ① スポンジキャップの固まったのりを取り除く
  ② スポンジキャップが固まらないように毎日使用する
  ③ 液状のりが乾燥などで容易に固まらないように粘度(濃度)を高くしない

(メーカーの仕事ですが)

 以下にそれぞれの対処法について解説します。
① スポンジキャップの固まったのりを取り除く→堅い便を浣腸で滑りやすくし排泄する

 大腸の働きは便の中の水分を吸収することです。排便がない日が何日も続くと、肛門の出口付近にある便はどんどん硬くなり、また次から次へと新たに硬い便が作られ、ますます排泄困難となります。このような状態では、スポンジキャップに固まったのりが付着した場合と同様に、強く圧力をかけても(強い腹痛が生じます)出口の狭い肛門を硬い便が通り抜けることは困難です。また、たとえ排泄できたとしても硬い便により肛門内が切れ、出血することにつながります。浣腸することにより、浣腸液が大腸を刺激するのみならず、浣腸液が潤滑油の働きをして滑りやすくし、狭い肛門を硬い便がスムーズに排泄できるようになります。

               便秘の治療の一つ目のステップは、
      肛門の出口付近に貯まって栓をしている状態の“硬い便を除去する”ことです。

② スポンジキャップが固まらないように毎日使用する→毎日排便する(でなくてもトイレで排便の訓練をしましょう)

 毎日排便することは大腸で便の留まる時間が少なくなり、柔らかい便のまま排泄することにつながります。便秘が持続している場合は、便秘の悪循環から抜け出すためにしばらくの間便秘薬を使用しましょう。便秘薬の効果が生ずるまでの数日間は、便を硬くしないために排便がなければ1日おきに浣腸をしましょう。浣腸を頻回にすると癖になると勘違いされていることがありますが、たとえ毎日浣腸をしていても癖にはなりません。また、食事量を増やすことも大切です。ところてんは専用の器具で押し出して作りますが、食事量を多くすればところてんを作る時と同様に、新しく摂取した食物で便が押し出されやすくなります。小食の子どもさんでは、おやつを少なくし、飲み物はお茶、白湯などのノンカロリーの飲料を主とし、3度の食事前に食事が待ちきれないほど、おなかをすかせましょう。そうすると自然と食事量が増加することが多いです。

              便秘の治療の二つ目のステップは
        可能であれば“毎日あるいは2日に1回排便する“ことです。
       排便回数が増加すれば、便が硬くなりにくく悪循環が断ち切れます。

③液状のりが乾燥などで容易に固まらないように、粘度を高くしない→食物繊維の多い食事を心がける。

 液状のりの粘度を低くすることは、便では柔らかい便にすることです。通常の便の75%は水分です。この水分量がより多くなると下痢になります。便の固形成分で大部分を占めるのが小腸で吸収されなかった“食べ物の残りかす”です。その中で重要なのが食物繊維で、人ではその消化酵素を持っていないため分解されずに小腸を通過し大腸に届きます。野菜、大豆、海藻など食物繊維の多い食品を摂取すると、食物繊維が水分を吸収し膨張するため、柔らかい便の量が増加します。逆に、白米(ご飯)、パン、麺類などは食物繊維が非常に少なく、これらを多く摂取していると便秘になりやすくします。ただし穀物の中で玄米、麦ご飯、ライ麦パンなどは、比較的繊維が多くおすすめです。食物繊維はうんちの量を増すのみならず、腸内に住む善玉菌のエサにもなっています。最近の研究によると、腸内に多種類の食物繊維を取ることにより、これらをエサとして多種多様な善玉菌が増加し、多種多様な善玉菌を多く持つ人ほど種々の病気になりにくく、健康長寿につながるとの報告があります。便秘を治すことは健康の維持にもつながります。

              便秘の治療の三つ目のステップは、
              “食物繊維を多く取る“ことです。

 一時的な便秘では、①~③の対処法を試してみましょう。 

 便秘を主訴に外来受診される子どもさんの多くは、長期間便秘が続いています。長期にわたり便秘が持続している場合は、上記①~③の対処法のみでは便秘が軽快することは少なく、上記対処法を行ないながら“便秘薬をしばらくの間内服する”必要があります。このような子どもさんでは、直腸に硬い便が長時間にわたり貯まっているため、直腸が太く拡張しています。便秘薬は、大きく分けて便を軟らかくする薬、大腸の動きを高める薬に分けられます。これらを単独または併用して便秘を引き起こす悪循環から抜け出しましょう。便秘薬の併用で排便回数が増加すれば、拡張していた直腸も縮小し、便意を感じるようになり便秘が治癒に向かいます。

        便秘の治療で大切なことは、便秘の悪循環を形成しないために
 “食物繊維を多く取るように意識し、かつバランスの良い食事に心がけ、毎日排便する習慣をつける”
                     ことです。

2019年08月14日